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【認定遺伝カウンセラーコラム】がん家系は本当にある?「がんと遺伝、遺伝子」についての疑問

2018年04月11日 09時00分

遺伝性のがんががん全体に占める割合や遺伝する確率、遺伝性のがんの検査方法について解説します


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どんながんでも遺伝すると思ってませんか?(写真提供:ピクスタ)

どれくらいの人ががんになるの?

 わが国において、2013年に新たに診断されたがん(罹患全国推計値)は862,452例(男性498,720例、女性363,732例)で、罹患数が多い部位は順に胃、大腸、肺、乳房、前立腺となっており、日本人は一生のうちに2人に1人はがんに罹患するといわれています(※1)。また、2016年にがんで死亡した人は372,986人(男性219,785人、女性153,201人)で、死亡数が多い部位は順に肺、大腸、胃、すい臓、肝臓となっており、3人に1人は何らかのがんが原因で亡くなっていることになります(死亡者数1 ,307,748 )(※2)。

 男女とも60歳台からがんによる死亡率が高くなり、60歳台以降は男性が女性よりも明らかに高くなります。

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図1.年齢階級別死亡率[全部位2016年](※1)

がんの原因は遺伝子変異

 ヒトのからだは1つの受精卵が分裂を繰り返して増え続け、数十兆個の細胞によってつくられています。ヒトのからだを構成する細胞は、神経細胞であれば刺激の伝達、赤血球であれば酸素の運搬という具合に特定の機能をもっています。このように機能をもった細胞になることを「分化」といい、分化した細胞を「体細胞」といいます。これに対して卵子や精子、受精直後の細胞を「生殖細胞系列」といい、区別しています。

 受精卵は子宮に着床するまでの間、特定の機能をもたず、着床後はサイトカインという物質の刺激により分化を起こし、様々な機能をもった細胞になります。ここで、生殖細胞系列に生じた遺伝子の変異は次世代に異常を伝達する場合がありますが、体細胞に生じた遺伝子の変異は次世代に情報を伝えることはありません。多くのがんは体細胞に生じた変異であることが分かっています。

 古くなった細胞は新しいものに置き換えられ、数や機能を維持するために複雑な調節機構が働いています。細胞には核があり、タンパク質を作り出すための遺伝情報が格納されています。この遺伝情報の本体はDNA(デオキシリボ核酸)とよばれ、A、T、G、Cの4つの塩基がペアを形成して存在します。このDNAが何らかの原因で傷ついたため、正常なタンパク質をつくることができず、細胞の無制限な増殖がおこるのががんです。DNAが傷つくことを変異といいますが、がんの発症には幾つかの遺伝子の変異が関与します。変異は一度に起こるのではなく、ある程度の時間をかけて段階的に進み蓄積します。これを多段階発がんといいます(※3)。変異の要因としては食生活や喫煙などの生活習慣、放射線、紫外線、化学物質、ウイルス感染などがあります。

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がんの中でも遺伝性のがんはどれくらいあるの?

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 ほとんどのがんは、体細胞に後天的に起こった遺伝子の変異が原因となって発症するので、一般に遺伝することはありません。しかしながら、体細胞ではなく卵子や精子などの生殖細胞系列に生じた1個の遺伝子の変異によって発症するがんが存在します。これには米国の女優、アンジェリーナジョリーが予防的乳房切除をおこなうに至った遺伝性乳癌・卵巣癌、大腸に多数のポリープが出現してがん化する家族性大腸ポリポージス、大腸、胃、卵巣などにおけるがんのリスク増加を特徴とするLynch症候群、そして多種、多様な内分泌腫瘍、非内分泌腫瘍が生じる多発性内分泌腫瘍症1型などがあります。日本人における遺伝性のがんは、がん全体の5%程度とされています。

遺伝性のがんとその遺伝する確率は?

 遺伝するがんの変異は常染色体優性遺伝するため、子供に50%の確率で伝わることになります。また、変異を受け継いでも必ず発症するとは限らず、疾患の種類や年齢などが影響することが知られています。ごく稀に親からの遺伝ではなく、本人の生殖細胞系列に変異が生じて遺伝性のがんを発症することがあります。多くのがんは直接、遺伝することはありませんが、遺伝子の変異によって生じることがご理解いただけましたでしょうか。

 遺伝子検査MYCODEでは疾患の発症に直接関わる遺伝子とは異なる、一塩基多型 (SNP)というヒトの個性を表すような遺伝子領域を調べることで、病気のかかりやすさを発症リスクとして知ることができます。MYCODEが対象としている項目は遺伝要因と環境要因の相互作用により発症するがんを含む疾患です。検査結果は現在の病状、がんの診断に置き換わるものではありませんが、将来的な発症リスクとしてご自身の健康管理にお役立ていただくことができます。

がんの遺伝子検査は病院で受けられる?

 医療機関で実施されるがんの遺伝子診断には大きく2つのタイプに分けることができます。

① 体細胞変異を対象としたもの
 特定の臓器、組織にがんの原因となる後天的に生じた遺伝子変異があるかどうかを調べます。慢性骨髄性白血病に認められるBCR-ABL1、非小細胞性肺癌の3~5%に見られるEML4-ALKは検査が陽性であれば診断の根拠となります。これと同時に、陽性所見はがんの原因に作用する医薬品(分子標的薬)の治療対象例となり、効果を予測した上で、副作用を軽減した治療が一部のがんで実用化されています。これらの遺伝子検査は症状や他の検査結果などから絞り込みながら実施していくものです。

② 生殖細胞系列変異を対象としたもの
 遺伝性のがんを調べる場合は採血による血液細胞を対象に、生まれながらに持った将来不変の遺伝情報を検査します。その検査結果は本人のみならず、血縁者にも影響する場合があることを考慮し、特定の医療機関でのみ実施されています。遺伝性乳癌・卵巣癌ではBRCA1あるいはBRCA2、家族性大腸ポリポージスではAPCの変異を詳細に調べます。この場合も本人の申し出によってすぐに実施できるものではなく、家系調査で血縁者に同様のがんを発症した人がいるかどうか、また十分な遺伝カウンセリングを実施して、検査結果の伝え方や二次的所見(目的とする遺伝子以外の変異)が認められた場合の対応方法などについても確認しておくことが必要となっています。

がんの遺伝子検査にかかる費用はいくら?

 遺伝子検査の費用については、遺伝性疾患や一部のがんで遺伝カウンセリング料を含め、保険適用が認められていますが、保険適用になっていない遺伝子検査の場合は数万円から数十万円が遺伝カウンセリング料を含めて自己負担となります。この場合、実施項目や解析方法または実施施設によって費用が異なってきますので、専門の医療機関で相談されることをお勧めします。

執筆者
認定遺伝カウンセラー 藤田和博
プロフィール:昭和大学藤が丘病院での先天異常、血液腫瘍の遺伝子・染色体検査の経験を生かし、現在は大東文化大学 スポーツ・健康科学部 健康科学科教授として臨床検査学教育と研究に従事。
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