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病気・医療

新型コロナウイルスのPCR検査・抗体検査・抗原検査、有効性と限界は?【医師によるコラム】

公開日:2021年7月29日

よく耳にする3つの検査の違いとは?(写真:Shutterstock.com)

ウイルス感染の診断法

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行が続いています。この病気かどうかを診断する方法として、テレビやネットの報道などでも耳慣れた言葉になっているのが、PCR検査です。

 また、抗体検査や抗原検査など、他のウイルス診断法が開発された、という報道もしばしば見られるようになりました。こうした診断法にはどのような違いがあり、どの方法が最も優れているのでしょうか?

 その点をなるべく分かりやすく解説したいと思います。

*なお本記事は、2020年6月11日に配信した記事を、2021年6月22日時点での情報を元に加筆・修正したものです。

PCR検査はどんな検査?

 PCRというのは、polymerase chain reaction(DNAポリメラーゼ連鎖反応)の略です。生物の情報は遺伝子で伝えられ、人間などの動物ではその本態はDNAです。細胞が増殖する時には、2本の鎖構造であったDNAが分かれて、DNAポリメラーゼという酵素によってもう1本のDNA鎖が新たに合成されます。

 PCRはその反応を連続して起こすことにより、特定の遺伝子配列を増幅させて検出する、という検査のことです。

 新型コロナウイルス感染症の診断に使われているのは、通常のPCR検査ではなく、RT-PCR検査です。PCRはDNAを増やす検査ですが、新型コロナウイルスは遺伝子として、2本鎖のDNAではなく、1本鎖のRNAを持っているので、そのままではPCR検査は出来ません。そのために、まず逆転写酵素(reverse transcriptase)という通常とは逆転した反応を起こす酵素を利用して、RNAからDNAを合成し、そのDNAをPCRで増幅するのです。

 ウイルスというのは増殖に必要な遺伝子と、それを守り感染に役立つタンパク質だけを持ち、人間や動物のような細胞は持たない、生物と非生物の中間のような存在です。今PCR検査と呼ばれているものは、新型コロナウイルスの遺伝子のうち、他のウイルスと違う特徴的な遺伝子の配列の幾つかが、あるかどうかを検出しているのです。従って、PCR検査が陽性、というのは、そこの場所にウイルスがいるよ、という意味です。

 新型コロナウイルスはのどや鼻の粘膜、肺の細胞、腸の細胞の、大きく3つの場所で増えると考えられています。最初に感染してウイルスが増えるのは、通常はのどや鼻の上気道なので、検査は主に鼻やのどの奥から、細い綿棒で組織を採取して、そこにウイルスの遺伝子があるかどうかを調べるのが一般的な方法です。

 最近では唾液の検査でも鼻やのどの検査と同等の有効性があるという報告があり(※1)、日本では主に唾液を使用した検査が行われています。ただ、発病してから10日以上経過している場合などは、鼻やのどからの検査をする必要があります。

PCR検査の有効性と限界は?

 この検査は陽性になれば、新型コロナウイルスの感染があることは、たいていの場合確実であると考えられます。実際には感染がないのに陽性になるのは、検査のやり方に問題があったり、検体が汚染されたりした場合だけです。

 ただ、感染があっても時期によっては陰性になることがあり、検体をとる場所によっても陰性になってしまうことがあります。そのため、陰性であっても、感染がないとは言い切れません。よく何度も何度も検査をして初めて感染が分かった、というような話がありますが、これはそうした検査の限界があるからです。

 また、陽性であることは、必ずしもその時点で病気であることや、他人にうつす可能性があることと同じではありません。ある研究によると、鼻の粘膜のPCR検査は1か月以上陽性になったのですが、その場所からウイルスをとって培養をしても、症状が出てから8日以降はウイルスが増えることはなかった、という結果が出ています(※2)。

 これは、症状が出てから8日以上経過していれば、PCRは陽性であっても、そのウイルスはもう他人に感染したり、身体で増えるような力を失っている可能性が高い、ということを意味しています。

 以前にはPCR検査が繰り返し陰性にならないと、その患者さんが治ったとは判断出来ませんでした。ただ、PCR検査はウイルスに病気を起こす力があることは証明出来ないので、前述のようなデータを元にして、今では発病から10日以上経過していて、3日以上症状がなければ、特に検査はせずに、通常の生活に戻って良いことになっています。それは、完全に治ったという意味ではないのですが、周りにうつすような心配はないので、そうした基準を作っているのです。逆に言えば、その患者さんが完全に治ったということを示す、確実な方法はないのが実際なのです。

ウイルス抗体検査はどんな検査?

 最近よく耳にするのが、血液を使った抗体検査です。これは採血をして調べる方法もありますし、迅速キットと言って、血液を2滴くらいそのまま滴下して、それで15分以内くらいに結果が出るようなものも、国内外の複数のメーカーから発売されています。現時点では健康保険の適応にならないので受ける場合は自費になります。

 抗体検査というのは、身体にウイルスが侵入した時に、自分を守るために作る抗体というタンパク質を、血液で測定する検査です。抗体が陽性ということは、新型コロナウイルスの感染を、現在もしくは過去に受けたことを示しています。ウイルスが飛散するような心配はないので、安全に検査が出来るという点が利点です。

 抗体には幾つかの種類があり、現在検査されているのは、IgM抗体とIgG抗体の2種類です。通常新型コロナウイルスに感染してから早期に上昇して、比較的早く陰性になるのがIgM抗体で、同じ頃から上昇しますが、その後長く陽性が続くのがIgG抗体です。

 これまでの報告では、症状が出てから1週間後くらいから両方の抗体が陽性になり始め、2週間後にはほぼ全ての事例で陽性となって、IgM抗体は5~7週間くらいで陰性になることが多いようです。IgG抗体は2か月くらいの期間は陽性のままであることが確認されていますが、どのくらいの間陽性であるかは、まだ分かっていません(※3)。

抗体検査の有効性と限界は?

 抗体検査は血液だけで出来るので、検査の際に飛沫が飛ぶなどして、医療従事者が感染するリスクが少なく、より安全に検査が出来るというメリットがあります。また、すぐに結果が出ることも利点です。

 ただ、その抗体がどのような役割を持っているのかが、まだよく分かっていない、と言う点と、迅速キットの場合、そのメーカーによっても測定している抗体や測定法が違うので、比較するのが難しい、というのが欠点です。

 4種類の抗体検査を実施したら、その結果が全て違っていた、というような報告もあります。これでは検査をしても、それで安心、とは言えないのが、この検査の問題なのです。

 たとえば、麻疹(はしか)のような病気であると、血液の抗体価(IgG抗体)を測定することで、その病気に罹ったことがあるかどうかが分かり、一度罹っていればもう二度は罹らない、ということも分かります。しかし、新型コロナウイルスのIgG抗体が同じような性質を持っているかどうかは分からないので、それが陽性でももう罹らない、とは言えないのです。

 アメリカで有名な芸能人が、抗体検査が陽性だったのでもうウイルスを吸い込んでも安心、というようなニュアンスの発言をして問題となりましたが、もちろんそんなことはないのです。

ウイルス抗原検査はどんな検査?

 2020年の5月に、新型コロナウイルスの抗原迅速キットが健康保険で認められた、というニュースが話題になりました。

 この抗原迅速検査というのは、新型コロナウイルスの一部のタンパク質に反応する抗体を利用して、(抗原となる)ウイルスがいるかどうかを診断する、という検査です。

 インフルエンザの疑いがあると、病院で鼻に綿棒を入れた検査をして、その場でインフルエンザかどうか、分かるという検査がありますね。それと同じことを、新型コロナウイルスでするのがこの検査です。

 従って、検査のやり方はPCR検査と一緒で、抗体検査と同じように30分以内には結果が分かります。陽性であればウイルスがいるということなので、結果の判断はPCR検査と同じです。

ウイルス抗原検査の有効性と限界は?

 抗原検査は陽性であれば、その時点で新型コロナウイルス感染症の可能性が高いことを意味しています。

 ただ、ウイルス量が少ない場合などは陰性になってしまうので、症状が疑わしければ、PCR検査などで確認する必要が出てきます。PCR検査はウイルスに特徴的な遺伝子を増幅して検査するので、微量でも検査は陽性になるのです。また、検査の精度によっては、通常の風邪のコロナウイルスなど、他のウイルスの感染でも陽性になってしまう、という可能性もあります。

 その役割はPCR検査と同じですが、結果が早く出るという利点がある一方、それだけでは病気を見逃してしまう可能性があるので注意が必要なのです。

検査を場合によって組み合わせて診断することが重要!

 以上3種類の新型コロナウイルス感染症の診断のための検査を説明しました。

 現状はまだPCR検査に頼る部分が大きいのですが、迅速診断のキットがより進歩して、その検査の意味合いも明確になってくると、現在よりも迅速で確実な診断が行われるようになると思います。


執筆者

医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

参考文献

※1. Butler-Laporte G, Comparison of Salva and Nasopharyngeal Swab Nucleic Acid Amplification Testing for Detection of SARS-CoV-2: A Systematic Review and Meta-analysis., JAMA Intern Med
※2. Wölfel R, Virological assessment of hospitalized patients with COVID-2019., Nature.
※3. Sethuraman N, Interpreting diagnostic tests for SARS-CoV-2., JAMA.