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病気・医療

アルツハイマー病発症のメカニズムに近づく新事実が発覚

公開日:2015年1月29日
更新日:2018年6月18日

厚生労働省の報告によれば、2025年にはアルツハイマー病を含む、いわゆる認知症の人が、なんと470万人まで増加すると推計されています。


アルツハイマー病などの認知症となると脳の動きがにぶり、記憶も奪われる(写真 : Joaquim Alves Gaspar/クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0 非移植)

アルツハイマー病はいずれ身近な病気に

アルツハイマー病は皆さん聞いたことがあると思います。脳の働きがにぶり、記憶なども奪われていく、恐ろしく、そして悲しい病気です。
そんなアルツハイマー病ですが、厚生労働省の報告によれば、わが国では高齢化が急速に進み、団塊世代が75歳以上となる2025年にはアルツハイマー病を含む、いわゆる認知症の人が、なんと470万人まで増加すると推計されています。

しかしながら、アルツハイマー病には効果的な予防法・治療法が確立されておらず、いま現在、もっとも研究の進展が待ち望まれている病気の一つとなっています。

これまでの研究成果としては、アルツハイマー病の特徴として脳内でのアミロイドβというたんぱく質の蓄積があげられてきましたが、その蓄積の仕組みは明らかにされていませんでした。
今回、大阪大学研究チームは、このアミロイドβたんぱく質 の蓄積に関わっているメカニズムを発見したと、米国科学アカデミー発行の機関紙に報告しました。

アルツハイマー病になりにくい体質のマウスとは?

研究グループは、実験用マウスの中からアルツハイマー病の原因として考えられているアミロイドβの蓄積が、通常より1/3から1/4程度に減っているマウスを見つけ出しました。そして、このアルツハイマー病になりにくい体質のマウスと通常のマウスの脳で働いている遺伝子を比較することにより、アミロイドβの蓄積を抑えている遺伝子を見つけることができるのではないかと考えたのです。

解析の結果、アミロイドβの蓄積と関係している物質は、遺伝子そのものの違いではなく、遺伝子(DNA)から作られる産物(RNA)の違いであるらしいことが明らかになりました。

アミロイドβの蓄積を制御する物質を発見

マウスの脳では、Klc1と呼ばれる遺伝子から5種類のRNAと呼ばれる物質が合成されています。このRNA量を、アミロイドβの蓄積が少ないマウスの脳と、通常のマウスの脳とで比較したところ、アミロイドβの蓄積が少ないマウスの脳では、Klc1遺伝子から作られる5種類のRNAのうち、“Klc1 E”と名づけられたRNAが少ないことがわかりました。

研究者たちは、このKlc1 EというRNAがアミロイドβたんぱくの蓄積に、ひいてはアルツハイマー病の発症に関わっていると考え、マウス以外でも観察と実験を試みました。
ヒトにおいてこれと同様の結果が得られるかを調べたところ、Klc1 EというRNAの量は、アルツハイマー病でない高齢者よりも、アルツハイマー病である人の脳で高いという、マウスでの結果と似たような結果を得る事がことができました。
さらに、神経細胞を用いた細胞実験でも、このRNAの量を人工的に増減させると、アルツハイマーの原因物質であるアミロイドβの産生も増減することがわかりました。

つまり! このKlc1 EというRNAの量が、アミロイドβの脳内での蓄積に影響を与え、アルツハイマー病の発症に関わっている、というメカニズムが存在している可能性を、明らかにしたといえるでしょう。

今後、さらにアルツハイマー病のメカニズムが研究されることにより、根本的な治療法や画期的な予防法の開発が、大いに期待されます。


参考文献

Transcriptome analysis of distinct mouse strains reveals kinesin light chain-1 splicing as an amyloid-β accumulation modifier. 
Proc Natl Acad Sci U S A. 2014;111:2638-43

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