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病気・医療

【管理栄養士コラム】多くの人が気になる「アルツハイマー病」の予防法とは?(検査結果を復習)

公開日:2017年2月23日
更新日:2019年8月30日

管理栄養士による生活改善コラム、第五弾。アルツハイマー病の予防法をご紹介します。


まずは身近なところからアルツハイマー病の予防に取り組んでみてはいかがでしょうか。(写真:Shutterstock.com)

 アルツハイマー型認知症は、遺伝子検査MYCODE実施後のサービス(MY健康サポート)で予防法をご相談いただくことがとても多い病気です。アルツハイマー型認知症の予防法は、まだ研究段階のものが多いですが、この数年の研究データと共にご紹介したいと思います。

認知症とアルツハイマー病について

 認知症にはいくつか種類があり、主にアルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症が挙げられます。それぞれ原因や予防法に違いがありますが、今回はアルツハイマー型認知症についてご紹介させていただきます。

 アルツハイマー病は、認知症の中でも近年増加傾向にあり、性別でみてみると男性(27%)に比べて女性(73%)に多く発症しています(※1,2)。

遺伝要因と環境要因

 アルツハイマー病の発症は遺伝と環境の要因が関与していますが、遺伝要因32~79%、環境要因21~68%程度と考えられています(※3,4)。ご自身の遺伝的な発症リスクがどのくらいだったか、覚えていらっしゃいますか?



 残念ながら遺伝要因は私達の力で変えることはできませんが、遺伝子検査結果でリスクが高いからといって、必ず発症するわけではありません。また、リスクが低くとも、環境要因(生活習慣)によっては発症する可能性が高まりますので、“今できること、自分に必要なこと”を整理していきましょう。

アルツハイマー病の予防対策として取り組めることをまとめました!

 アルツハイマーの予防対策としては、以下のようなものがあります。それぞれについて、詳しくチェックしていきましょう!

1. 毎年の健康診断で糖尿病指標(空腹時血糖値・HbA1c)をチェック!
2. 年齢に関係なく、禁煙の効果は大きい!
3. 適度な飲酒習慣は予防効果あり、中でもワインが良いという情報があります。
4. 日本の伝統的な和食(ご飯はお茶碗1杯程度で、大豆・大豆製品、野菜、海藻の使用頻度が高い食事)に、1日1回程度の乳製品を加えましょう。
5. 海馬の容積アップ!記憶能力の改善を期待して1日30~50分程度の歩行習慣を!

1. 糖尿病“予備軍”で確実にリスクが高まる

 日本の代表的なコホート研究である久山町研究は、1961年から住民の健康状態について追跡調査を行っており、認知症についても多くの報告がされています。

 糖尿病の人は血糖値が正常の人に比べると、アルツハイマー病の発症リスクが2.05倍だったと報告されています。また、糖尿病予備軍である耐糖能異常*でもリスクが1.9倍と高値(図1)だったことから、アルツハイマー病の予防は、“糖尿病予備軍”と指摘された時点から血糖コントロールを意識した取り組みが重要となります(※5)。
*耐糖能異常:食後に上昇した血糖値が下がりにくくなっている状態。健康診断時などの空腹時血糖値は正常なこともある。

図1.糖負荷後2時間血糖レベルとアルツハイマー病のリスク(※5)

2. これを期に本気で禁煙を考えてみませんか?

 喫煙はアルツハイマー病の発症リスクを高めるといわれています。今回は、「ある程度の年齢になってから禁煙を開始した人でも予防効果がみられた」という報告をご紹介します。

 久山町研究によると、中年期から老年期にタバコを吸い続けた人は、まったく吸わない人と比べると発症リスクが2.0倍でした。一方で、途中で禁煙した人は、タバコを吸い続けた人よりもリスクが減少し、まったく吸わない人と比べても有意な差は認められませんでした(図2)(※6)。ある程度の年齢になってからの禁煙でも予防の効果が期待できそうなことは朗報ですが、禁煙を開始する年齢は若いに越したことはないです。現在喫煙習慣がある方は、アルツハイマー病の予防をモチベーションに禁煙にチャレンジしてみませんか!

図2.喫煙状況とアルツハイマー病のリスク(※6) 

3. 飲酒習慣のある方には朗報です!

 アルコールは神経毒であるため、大量の飲酒は脳の萎縮をもたらすといわれています。一方で、“適度な飲酒”はアルツハイマー病を予防するという報告が多数あります(※7)。では、“適度な飲酒量”とはどれぐらいなのでしょうか。海外のある研究では、ワインを250~500 mL/日で予防効果があったと報告されていますが、人種や個人差を考慮すると私達日本人にこの量が適量であるとは限らないようです(※8)。がんや生活習慣病予防とのバランスを考えると、1日1合程度が一般的な適量と考えるのが良さそうです。

 また、以前は予防効果にアルコールの種類は関係ないといわれていましたが、近年の研究では、赤ワインのみ認知機能低下の予防作用があったという報告があります(※7)。

 いずれにしても飲酒に関して日本人を対象とした報告が少ないことから、現在飲酒習慣のある方は適量の範囲内でお酒を楽しみながら新たな情報を待つことにしましょう。

4. 日本人におすすめの食事とは

 海外での報告で “地中海食(オリーブオイル、穀物、野菜、果物、ナッツ、豆、魚、鶏肉を中心とした食事に少量のワイン)”がアルツハイマーの予防に良いと推奨されていますが(※7)、日本人を対象とした久山町研究でも食事のとり方とその予防効果が報告されています。日々の食事で「大豆・大豆製品」や「牛乳・乳製品」、「緑黄色野菜」、「海藻類」などの食品を多くとり、「米」の摂取量が少ない人ほど(表1)、アルツハイマーの発症リスクが低値(0.6倍)だったとされています(※9)。アルツハイマー病の予防に注目されている栄養素(葉酸、ビタミンA、B12、C、E等)は、これらの食品に多く含まれていることからも十分説明ができます。

 中でも牛乳・乳製品は組み合わせの効果ではなく単品での効果がみられ、摂取量が多いほどリスクが減少していました(※10)。この研究を参考にすると、1日の牛乳・乳製品摂取量推奨量は約70~100 g/日以上となりますが、とり過ぎは飽和脂肪酸の過剰摂取にもつながります。がんや生活習慣病予防も考慮すると、1日コップ2杯程度までを上限とすると良さそうです。

表1.認知症予防のための食事パターン(※9)

5. 海馬に注目!30~50分の有酸素運動を

 多くの研究で、運動にはアルツハイマー病の予防効果があるといわれており、毎日30~50分程度の歩行が最も有効とされています(※11)。

 その裏づけともなる最近の研究をご紹介したいと思います。海外の研究となりますが、健康な55~80歳の男女を集め、1日40分の有酸素運動を実施しました。その結果、1年で海馬(記憶を司る脳の一部)のサイズが約2%増加し、記憶能力の改善がみられたとされています。一般的に高齢者の海馬容積は毎年1~2%減少するといわれており、この減少は認知障害のリスクを増加させるといわれています。この研究で有酸素運動により逆に2%増加させたことは、嬉しい効果といえます。また、この参加者は開始時から40分歩いたのではなく、まずは10分歩くことから始め、40分に至るまで毎週5分間ずつ歩行時間を増やしていったそうです(※12)。そうは言ってもなかなか気が進まないという方は、まずは歩数計やウエアラブルで1日の歩数を把握したうえで目標設定してみるのはいかがでしょうか?おおよそ10分で1,000歩といわれていますのでご参考にされてください。


参考文献
※1. 厚生労働省, 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス「認知症」
※2. 厚生労働省, 平成26年患者調査の概況
※3. Rappaport SM, Genetic Factors Are Not the Major Causes of Chronic Diseases., PLoS One.
※4. Gatz M, Role of genes and environments for explaining Alzheimer disease., Arch Gen Psychiatry.
※5. Ohara T, Glucose tolerance status and risk of dementia in the community :the Hisayama study., Neurology.
※6. Ohara T, Midlife and Late-Life Smoking and Risk of Dementia in the Community: The Hisayama Study., J Am Geriatr Soc.
※7. 中島健二, 認知症疾患診療ガイドライン 2017 の序に替えて(案)P209~210.
※8. Larrieu S, Nutritional factors and risk of incident dementia in the PAQUID longitudinal cohort., J Nutr Health Aging.
※9. Ozawa M, Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study., Am J Clin Nutr.
※10. Ozawa M, Milk and dairy consumption and risk of dementia in an elderly Japanese population.: the Hisayama Study., J Am Geriatr Soc.
※11. 日本神経学会, 認知症疾患治療ガイドライン2010, 医学書院
※12. Erickson KI, Exercise training increases size of hippocampus and improves memory., Proc Natl Acad Sci U S A.