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病気・医療

私を守ってくれている「抗菌ペプチド」、憎きあの細胞のおかげだったとは!

公開日:2015年2月13日
更新日:2020年3月13日

 私たちの体を守ってくれる免疫。その免疫の一つとして「抗菌ペプチド」というものがあります。体の表面で病原菌が増えないようにしてくれる大切な物質。それを作っているのはなんと今まで厄介者だと思っていた「皮下脂肪」の細胞だとわかったのです!


病原体から身を守る免疫の一員「抗菌ペプチド」とは?(写真:Shutterstock.com)

外敵から体を守るしくみ「免疫」

 生き物はなぜ死ぬと腐っていくのでしょうか?それは、生きている間、ずっと外敵から体を守っていた「免疫」がストップするからです。体は生きている間、出来る限りの手段を使って外敵から自分を守ろうとしています。

 免疫の仕組みはとても複雑で、とても一言では語りつくせないのですが、体を攻撃しにやってきた病原体を、「マクロファージ」や「好中球」という名の細胞が包み込んで食べてしまうことで体を守る「自然免疫」、そして自然免疫細胞に病原体が食べられている間に、リンパ球が病原体を記憶し、その病原体のタイプに合った専用の攻撃ツール(抗体、サイトカインなど)を作る「獲得免疫」、の2つに分けられます。私たちの体は知らない間にしっかりと守られているのです!

もう一つ、免疫の大事な一員

 忘れてはいけない大事な免疫の仕組みとして、もう一つ「抗菌ペプチド」というものがあります。これは単細胞生物を含めた多くの生命に存在する免疫の役者の一員です。ヒトでは皮膚の表面などに存在して、体の表面で病原菌が増えないように保っている必要不可欠な物質です。抗菌ペプチドが無かったら、体の表面はあっという間にカビだらけになってしまうでしょう!「ディフェンシン」や「カテリシジン」と呼ばれる抗菌ペプチドが有名です。

抗菌ペプチドを作っていたのは皮下脂肪

 これらの抗菌ペプチドは主に皮膚の細胞や好中球などが作っているということがわかっていました。しかし、今回新たに、何と普段厄介者と見られがちな「皮下脂肪」の細胞が「カテリシジン」を作っているということが研究で判明し、報告されました。

 研究はマウスを使った実験でおこなわれました。マウスの皮膚に「黄色ブドウ球菌」という食中毒で有名な細菌を塗ってみたところ、脂肪の細胞がみるみる増えることがわかり、菌に対して脂肪細胞が何かをしているのではないかと考えられました(※)。

 次に、正常なマウスと生まれつき皮下脂肪を作れないマウスの皮膚に、それぞれ黄色ブドウ球菌を塗って比べたところ、明らかに皮下脂肪を作れないマウスの方が菌が増えていったため、皮下脂肪が菌からの防御に大事なのだということがわかりました。そこで、脂肪の細胞を詳しく調べてみたところ、カテリシジンを産生していたことがわかったという訳です。

 こういう風にして新しい事実って発見されていくのですね。すごいし、おもしろいですね!

カテリシジンは多すぎても少なすぎても良くない

 研究グループによると、このカテリシジン、実は「適量」皮膚に出ていることが、正常に体を守るのにとても重要なのだそうです。少なすぎるとアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、多すぎると乾癬や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患の原因となるとのこと。カテリシジンに限らず、免疫系は、バランスが大事であることが多いようです。

 近頃日本人女性のやせ傾向が問題になっていますが、適度に皮下脂肪があることはとても大事だと再認識できましたね。もちろん「適度に」ですよ。


監修者

医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。

参考文献

Zhang LJ, Innate immunity. Dermal adipocytes protect against invasive Staphylococcus aureus skin infection., Science.