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【認定遺伝カウンセラーコラム】クレアチニン値が高い方は、腎臓の病気に注意!クレアチニン値を下げることはできる?

公開日:2018年8月15日
更新日:2019年2月12日

クレアチニン値と腎臓の状態の関係性をご存知でしょうか? (写真:Shutterstock.com)

運動を通してクレアチニンは生成されるの?

 ヒトは筋肉を動かすためにエネルギーを必要とします。生体内でエネルギーを作り出す方法には幾つか種類がありますが、その多くは解糖系とよばれるブドウ糖を分解する方法で作られています。これ以外にも脂肪やアミノ酸を代謝して作り出す方法も知られています。アルギニン、グリシンといったアミノ酸を材料にする方法ではクレアチン経路が活用されます。ここで、アミノ酸から作られたクレアチンはエネルギー産生のために利用され、その結果「クレアチニン」という終末代謝産物が生じます。従って、運動をすることにより「クレアチニン」は体内で生成されています。

腎臓の機能とクレアチニン

 腎臓はソラマメのような形をした握りこぶし大の臓器で、骨盤の上に左右対称に2つあり、血液濾過作用、血圧調節作用、赤血球造血、骨代謝などをおこないます。腎臓の構造を図に示します(※1)(図1)。

図1. 腎臓の構造

 糸球体、ボーマンのう、尿細管を機能単位、ネフロンとよびます。輸入細動脈から入った血液は糸球体で濾過されます。濾過された原尿はボーマンのうに集められ、尿細管を通過する際に必要なものは再吸収されます。筋肉活動の結果生じた血液中の「クレアチニン」は、これ以上分解されることなく不必要なため、腎臓の糸球体から濾し出されて再吸収されず、全て尿中に排出されます。腎臓の機能が低下した場合、「クレアチニン」は尿中に排出されず、血液中に留まることになります。血液中の「クレアチニン」の基準値は男性:0.5~1.0 mg/dL、女性:0.4~0.8 mg/dLとされており、男女差があるのは筋肉量に依存するからです(※2)。筋肉量の多い男性は筋肉活動により生じるクレアチンリン酸の量が多く、その代謝産物である「クレアチニン」の量も多くなります。一般的に男性より筋肉活動の少ない女性では少なくなります。腎臓の機能が低下すると尿中に「クレアチニン」が排出されないため、血液中濃度は基準値を超えることになります。つまり、「クレアチニン」とは腎臓の機能をみるための検査と言えるのです。

 腎臓の機能を見るもうひとつの指標として、「推算糸球体濾過値(estimated glomerular filtration rate:eGFR)」があります。からだの大きい人ほど「クレアチニン」は多くつくられるので、年齢と性別を考慮して腎臓の機能をあらわしたものです(図2)。

図2. 推算糸球体濾過値の計算方法

 このeGFRから慢性腎臓病の重症度を分類することができますが、60未満に低下していることが診断の根拠となり、尿検査、画像診断、血液検査、病理診断なども必要に応じて実施されます(※3)。腎臓の機能は一度失われると、回復することが難しいため健康診断などで早期発見することが重要です。

腎臓機能の状態を調べる方法は?

 腎臓機能の状態を調べる方法に、尿検査があります。尿検査では糖、タンパク、血液が漏れ出ていないか検出用のテープで調べたり、尿沈査といって尿中の成分を顕微鏡で観察して赤血球、白血球、腫瘍細胞の有無を見ています。このうち腎臓の機能を評価するのは尿タンパクです。タンパクは健康な人では尿中に出現することはなく、検出されれば腎臓の機能異常が疑われます。ただし、「起立性タンパク尿」といって、長時間立ち続けていたり、運動することで腎機能に異常がなくてもタンパク尿がみられることがあります。その機序について詳しいことは分かっていませんが、学童に多くみられ、この場合条件を変えて検査するなど、経過を追って検査することが必要になってきます。尿素窒素はタンパク質が利用された後の老廃物で、腎臓で濾過され尿中に排出されますが、腎臓の機能が低下すると濾過されずに血液中に増加していきます。

新たな国民病「慢性腎臓病」について

 慢性腎臓病の患者数は1,330万人(10人に1人)と多く、新たな国民病ともよばれています。前述の「クレアチニン」、eGFRなどにより診断されます。糖尿病や高血圧などの生活習慣病、腎炎が原疾患になっていることがあり、慢性に経過するため自覚症状が少なく気付きにくい疾患です。そのまま放置すると腎不全になり、人工透析や腎移植が必要になってきます。腎臓のはたらきが低下して、腎臓の機能が正常の15%以下になった場合を末期腎不全といいます。

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 慢性腎臓病の診断基準は推算糸球体濾過値(eGFR)で表される腎機能の低下があるか、若しくは腎臓の障害(たんぱく尿やその他の腎障害を示唆する所見)が慢性的に3か月以上持続するものをすべて含んでいます(※4)(図3)。

図3. 慢性腎臓病の定義

クレアチニンを下げるには?

 一度、機能が低下した腎臓はもとに戻すことができません。腎臓の機能がこれ以上低下しないように食事療法、薬物治療、生活習慣の改善などの対策が必要になります。

 毎日の食事で気を付けなければいけないことは、体内の老廃物が排泄されにくくなるのでタンパク質、塩分、カリウムとリンの摂取制限と適切な水分量、十分なカロリー摂取がポイントになります。腎機能の状態によってどの程度の制限をするのかは原疾患や年齢などによって異なるため、医師や管理栄養士から適切な指導を受けましょう。

 薬物療法は腎臓の機能を補うことを目的に実施されます。高血圧を伴う場合は降圧薬や利尿薬を使って血圧の調節をおこないます。老廃物の除去には経口吸着炭素製剤を投与します。体液量やイオンバランスを保つためにはカリウム吸着薬が用いられます。また、腎臓は赤血球をつくるために必要なエリスロポエチンを産生する臓器ですが、腎臓の機能が害われるとエリスロポエチンの産生が低下するため、貧血を起こすことがあります。これを防ぐ目的でエリスロポエチンが投与されることがあります。

 生活習慣で気をつけなければならないことは禁煙、適度な飲酒を心がけ、十分な睡眠と適度な運動を実践することです。これは慢性腎臓病に限らず多くの病気の予防につながることですね。

執筆者
認定遺伝カウンセラー 藤田和博
プロフィール:昭和大学藤が丘病院での先天異常、血液腫瘍の遺伝子・染色体検査の経験を生かし、現在は大東文化大学 スポーツ・健康科学部 健康科学科教授として臨床検査学教育と研究に従事。
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