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【認定遺伝カウンセラーコラム】目の病気も遺伝子変異が影響しているの?!

公開日:2018年6月6日
更新日:2019年2月13日

遺伝子変異が影響する色覚異常とは?(写真:Shutterstock.com)

「ものを見る」という仕組みについてご存知ですか?

 ヒトがもつ五つの感覚、すなわち視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚を「五感」といいますが、さらに視覚では明るさを感じ取る明暗覚、色を識別する色覚など高度な機能が備わっていることにお気付きでしょうか。このような働きは受容体とよばれる器官によるものです。明暗覚を司るのは桿体細胞という受容体で、ロドプシンという色素を含みます。この色素は光に反応すると即座に退色し、これを視神経に伝えて明暗を感じ取るのです。色覚を司るのは錐体細胞で、ここには三種類のヨドプシンが存在し、色を感じ取っています。錐体細胞は波長(光を長さで表したもの)に敏感ですが感度は低く、十分な光量がないと機能しません。薄暗い部屋の中で物の形は分かっても、色の識別ができないのはこのためです。このように感覚器官は幾つかの受容体によってその機能を維持しているのです。

色の見え方が多くの人と違う「色覚異常」とは

 生まれつき、色の区別がつきにくいという方がいらっしゃいます。先ほどお話の中に出てきた色覚を司る錐体細胞にその原因があることが知られています。赤色を感じ取る赤錐体の遺伝子OPN1LW(opsin 1 long wave)と、緑色を感じ取る緑錐体の遺伝子OPN1MW(opsin 1 middle wave)はどちらもX染色体上に局在します。この遺伝子に変異が生じた場合に「色覚異常」となります。子供には変異をもつX染色体の伝わり方で罹患者または保因者となる可能性があります。X連鎖劣性遺伝形式により、この特徴は子孫に伝えられます。
 このX連鎖劣性遺伝形式についてご説明します。以下の図をご覧ください。まず、男女間で性染色体構成は異なり、父親はXY、母親はXXというタイプを示します。この場合、女性は2本のX染色体をもちますが片方は不活性化されているため、男女とも活性化しているX染色体は1本になります。X’を変異型とします。この図で母親は片方のX染色体に変異があるため保因者になります。保因者とは、変異はもつが本人は発症せず子孫に変異を伝える可能性がある場合をいいます。この母親のようにX’X女性の場合、X’は不活性化され、もう片方の正常なXが代償的にはたらくので、色覚異常を発症することはありません。一方、男性はX染色体を1本しかもたず、そのX染色体は必ず母親から受け継ぐため、変異型X’を受け継いだ場合に色覚異常を発症します。

図1. X連鎖劣性遺伝形式

色覚検査

 「石原式色覚検査表」というものをご存知でしょうか。小学校の健康診断で一冊の本のような形をした、大きなドットで何種類かの数字が描かれている・・・これは色覚異常を見出すための検査方法ですが、平成14年の学校保健法の改正で色覚検査が必須項目から外されました。これによって自分が色覚異常であることに気付く機会が無くなったわけですが、このような人達が進学や就職で不利益を受けるという実態が明らかになり、希望者には色覚検査をおこなうようになりました。色覚異常だからといって、生命活動に重大な危険性が及ぶわけではなく、色の見え方は人それぞれ、少しづつ違うのだという「多様性」を理解し、これを受け入れる社会をつくり出すことも重要な課題となっています。職業的には鉄道運転手や飛行機操縦士など、色覚異常である場合に制約を受けることがありますので、進学や職業選択の際には確認が必要です。

視野の中心が見えにくい・・「加齢黄斑変性」とは

 加齢に伴い増加する目の病気のひとつに「加齢黄斑変性」があります。わが国における2007年の調査では、この疾患の推定患者数は69万人で、増加傾向にあることが分かっています。では、この病気はどのようなものでしょうか。図2をご覧ください。「ものを見る」ためには水晶体とよばれるカメラのレンズに相当する場所を光が通過して、網膜というフィルムに相当する領域に像を結びます。網膜の中心部分を黄斑といい、視細胞(前述の桿体細胞と錐体細胞)が多く集まっています。この黄斑のさらに真ん中を中心窩といい、視細胞がさらに多く集まった部分があります。解像力が最も高く、読み・書きをするなど、高度な機能を果たす場所になっています。黄斑から離れるほど視細胞の数は減っていくため、その機能も低下していきます。この網膜の中心部にある黄斑にさまざまな障害が起こった状態を加齢黄斑変性といいます。障害の原因は大きく2つあります。1つは黄斑にある視細胞が徐々に減って視力が低下していく萎縮型で、もう1つは黄斑の周囲にできた新生血管が脆く、血液中の成分がここから漏れ出して障害を及ぼす滲出型です(※)。

図2. 目の構造

「加齢黄斑変性」の症状は

 黄斑に障害が起こると、視野の中心部がゆがんだり、見えにくくなるなどの視力障害が起こります。視野の周辺部は正常に見ることができます。症状が進むと視野の中心部が見えなくなり、急激に視力が低下することがあります。滲出型では進行が早く、視力障害が重度になる場合があり、早期に発見することが重要です。検査には視力検査やグラフ用紙のようなマス目を見て、ゆがみがあるかを調べるアムスラーチャート検査があり、網膜や新生血管の状態を見るための眼底検査などがあります。心当たりの症状があれば眼科を受診することをお勧めします。
 
 MYCODEでは加齢黄斑変性の発症リスクを平均的な日本人と比較して知ることができます。是非、ご自身の健康管理にお役立てください。

執筆者
認定遺伝カウンセラー 藤田和博
プロフィール:昭和大学藤が丘病院での先天異常、血液腫瘍の遺伝子・染色体検査の経験を生かし、現在は大東文化大学 スポーツ・健康科学部 健康科学科教授として臨床検査学教育と研究に従事。
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