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病気・医療

なぜ日本人に脂肪肝が多いのか?~脂肪肝と遺伝子多型~【MYCODEセミナーレポート】

公開日:2019年11月7日

お酒をあまり飲まない人でも脂肪肝に!?(写真:Shutterstock.com)

 最先端の遺伝子研究や最新の健康トピックに関して、第一線で活躍する講師陣をお招きして開催する「MYCODEセミナー」。2019年10月は、肝臓疾患がご専門の内科医であり、日本における非アルコール性脂肪性肝疾患の第一人者でいらっしゃいます角田圭雄先生をお招きしました。セミナーでは、遺伝子と肝疾患の関連性についての知見や、その意義についてお話しいただきました。

講師: 角田 圭雄 先生
愛知医科大学内科学講座肝胆膵内科学准教授。一般社団法人日本医療戦略研究センター(J-SMARC)代表理事。英国国立アングリア・ラスキン大学MBA取得コースExeJapan Business School客員教授。
肝臓病を専門とする医師であり、日本における非アルコール性脂肪肝対策の第一人者。

講義される角田先生

1.肥満や糖尿病は肝臓がんと関連する

 はじめに、肥満や糖尿病は脂肪肝だけではなく、肝臓がんの原因にもなりえるというお話をしていただきました。

①肥満は肝臓がんの危険因子
 現在、BMIが25を超えている人は世界で約22億人であり、3人に1人が肥満だといわれています。また、肥満関連疾患で亡くなる人は年間400万人といわれており、飢餓で亡くなる人よりも肥満が原因で亡くなる人の方が多い時代となりました。そんな中、10年ほど前から肥満はがんの原因になりえるのではないかと注視されています。欧米の男性において、肥満になると様々ながんの発症リスクが高くなり、特に肝臓がんになりやすいことが報告されています(図1)。

図1. 肥満は発がんの危険因子(米国、男性)

②糖尿病患者が肝臓がんを発症するリスク
 日本でも患者数が1,000万人(国民健康・栄養調査より)に達する糖尿病ですが、糖尿病患者は、そうでない人と比べるとがんの発症リスクが高く、死因にも関与していることが知られています。

 日本の疫学データをまとめた報告によると、糖尿病患者は、がんの中でも肝臓がん、膵臓がん、大腸がんの発症リスクが、そうでない人より高いことがわかりました(図2)。2型糖尿病が独立した肝臓がんの危険因子でもあることが明らかになり、肝臓がんの予防には、糖尿病のコントロールが重要であると考えられています。

図2. 糖尿病と発がんリスク

 また、愛知医科大学で、日本国内の糖尿病患者(45,708人)の死因を調査したところ、肝臓がんが6%(5位)、肝硬変が3.3%(10位)と死因が肝疾患である割合が9.3%だったと報告されています。つまり、糖尿病患者の10人に1人が肝臓の病気で亡くなられていました(図3)。

図3. 日本人糖尿病患者の死因

2.脂肪肝の種類と原因

 ここからは、肝臓がんに進行する可能性のある脂肪肝についてご説明します。

 脂肪肝の原因に、アルコールが関与している場合とそうではない場合とがあります。お酒をあまり飲まないのに発症する脂肪肝をNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)といいますが、日本人では増加傾向にあるとされています。

 アルコール性か非アルコール性かの判断には、飲酒量が用いられています。エタノール換算で男性30g/日以上、女性20g/日以上の飲酒量でアルコール性の脂肪肝となる可能性があるとされ、NAFLDはそれ未満である場合とされています。エタノール換算で20g/日とは、ビール中瓶1本、日本酒1合、ウイスキー(ダブル)1杯、ワイングラス2杯程度です。

 NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)は、次の2つのタイプに分けられます(図4)。

①NAFL(非アルコール性脂肪肝)
 単に肝臓に脂肪が溜まっている状態で、長期間放置していても肝臓の病気で亡くなる可能性は低く、NAFLDの約80%がNAFLといわれています。

②NASH(非アルコール性脂肪肝炎)
 肝臓に炎症を起こし、一定期間炎症が続き線維化(硬くなる)が進むと肝硬変や肝臓がんに進行し、死に至る可能性が高い脂肪肝です。NASH患者の10~20%が肝硬変に進行し、そのうち1年に2~3%の人が肝臓がんを発症するといわれています。

図4. 非アルコール性脂肪性肝疾患の種類と状態

3.肝臓の線維化(硬くなる)が進むほど死亡率が増加する

 肝臓に脂肪が溜まること自体は、健康に大きな悪影響を及ぼすことはないのですが、その先に肝臓の線維化が進み、肝臓がんに進行する可能性があることに注目しなければなりません。欧米の報告では、肝臓の線維化が進み肝硬変になると、死亡率が約6倍高まる、また、肝臓の病気で亡くなるリスクが約40倍となるとされています(図5)。

図5. 肝臓の線維化と死亡率

 肝臓の線維化は病気の進行の程度を表す重要な指標であり、評価には血液検査や画像検査が用いられています。肝臓の線維化を簡易に評価する方法として、日本肝臓学会のサイトをご紹介いただきました(※)。FIB-4 index(フィブフォーインデックス)は、年齢、血液検査の結果より把握できるAST値、ALT値、血小板数から自動計算されますが、その評価については、主治医にご相談ください。

4.NAFLDの発症には、成人後の体重増加とPNPLA3遺伝子が関係している

①体重の増加
 NAFLDとBMI(体重増加)の関係について、京都第二赤十字病院健診部の研究をご紹介いただきました。BMIが高いと脂肪肝の割合は当然増えていき、BMI25以上の方は7割近くが脂肪肝を生じていました。興味深いことに、BMI25未満でも約15%が脂肪肝であることがわかりました。健康診断結果より得られたデータをまとめてみると、「成人後に10kg以上体重が増加」することが脂肪肝に関係していることが明らかになりました。現在の体重がどの程度であるかも関与していますが、成人以降にどの程度体重が増加したのかということがNAFLDのリスクとなりえることがわかりました。

②PNPLA3遺伝子
 近年、PNPLA3という遺伝子がNAFLDの発症に関係していることがわかってきました。PNPLA3遺伝子はCC型、CG型、GG型のタイプに分かれますが、Gを持っている人ほど肝臓に脂肪が溜まりやすいため、脂肪肝になりやすいといわれています。それだけでなく、肝臓に炎症を起こしやすく、線維化が進行しやすいため、肝臓がんにもなりやすいことが報告されています。

 角田先生が行った調査では、824人のPNPLA3遺伝子と成人後の体重増加を調べてみたところ、PNPLA3遺伝子がCG型またはGG型で、成人後に体重が増えた人が脂肪肝になる割合が高く、6割を超えていました。CC型で成人後に体重が増えた人で5割程度、成人後に体重が増えていなくてもCG型またはGG型の人は2割程度、CC型で成人後体重が増えていない人は脂肪肝になりにくいことがわかりました(図6)。

図6. 遺伝型と成人後の体重増加とNAFLDの頻度

 これらの調査を用いて、NAFLDの発症には遺伝要因と環境要因の2つが関与していることを紹介いただきました。

・遺伝要因:PNPLA3遺伝子にGを持っているとリスクが高まる(発症リスクはGG型>CG型>CC型)
・環境要因:成人後の体重増加

5.日本人になぜ脂肪肝が多いのか?PNPLA3遺伝子GG型の割合の違い

 日本人は欧米人ほど太っていないのに脂肪肝の割合が高いことが知られています。例えば、日本人とイギリス人のPNPLA3遺伝子GG型の人の割合を比べたところ、イギリス人では全体の5%であったのに対して、日本人ではGG型が21%もいることがわかりました(図7)。

 日本人は、肝臓に脂肪を蓄えやすいPNPLA3遺伝子GG型を持つ割合が多いため、肥満でない場合でもNASHを発症する可能性が高いと考えられています。

図7. PNPLA3遺伝型の分布(日本と英国の比較)

 遺伝子検査MYCODEを受けられた方は、ご自身の「非アルコール性脂肪性肝疾患」のリスク(PNPLA3遺伝子のタイプ)を確認することができます。リンク先ページ下部の「あなたの遺伝型」(SNP名:rs738409)をご覧ください。

6.NAFLDの改善法・治療法

①肥満の改善
 BMI(体重)が高いと、脂肪肝の割合は増加します。まず、現体重の5~7%(70kgで3.5~5㎏)の減量が重要です。また、肝臓の繊維化が進行されている場合は、10%(70㎏で7㎏)程度減量することが推奨されているようです。食事からの摂取エネルギー量をコントロールし、運動で体脂肪を燃焼させることが重要です。

②コーヒーの摂取
 海外の研究では、コーヒー(カフェイン入り)が肝臓の線維化を抑えるともいわれており、1日3杯以上飲むことが推奨されています。

③薬物療法
 現在、世界中で脂肪肝に関する治療薬の開発が進んでいる一方で、まだ十分には確立されていないようです。まず、基礎疾患として糖尿病や脂質異常症、高血圧の有無により、処方される治療薬が異なります。糖尿病を併発している患者向けには、尿中に糖を排泄し体重減少させる作用や食欲を抑制する作用のある治療薬が脂肪肝の改善にも効果が認められていることをご紹介いただきました。また、基礎疾患の有無に関わらず、肝臓の線維化が認められる患者には、抗酸化療法としてビタミンEが線維化の進行を抑制することを目的に処方されるとのことです(図8)。一方で、ビタミンEの投与に関して、過剰投与、長期投与に関する注意が必要とされていますので、サプリメントによる摂取も含め主治医にご相談ください。

図8. 脂肪肝の薬物療法

 MYCODEセミナーは、今後も開催していく予定です。会員の皆様にはメールで開催予定をお知らせしておりますが、セミナー予定ページもぜひご活用ください。

会場の様子

参考文献
日本肝臓学会, FIB-4 index計算サイトのご案内

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