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【医師によるコラム】銀杏の食べ過ぎにご注意を!食中毒の原因になるのはなぜ?

公開日:2015年12月7日
更新日:2020年8月4日

 「銀杏は年の数以上食べてはいけない」という言い伝えが残っているように、銀杏を食べ過ぎると中毒症状を示すことがあるようです。


銀杏による中毒症状の原因とは!?(写真:Shutterstock.com)

銀杏の食べ過ぎに注意!「銀杏は年の数以上食べてはいけない」という言い伝えも

 こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。

 銀杏がイチョウの樹から落ちる季節になりました。お好きな方も多いと思いますが、銀杏は食べ過ぎると中毒になるという、怖い食品でもあることを、忘れてはいけません。

 イチョウの実である銀杏を炒って食べるのは、日本人の昔からの習慣ですが、中毒のあることも昔から知られていて、節分の時に年の数だけの豆を食べるのは、「年の数以上は食べてはいけない」という裏の意味合いがあり、「銀杏は年の数以上食べてはいけない」という言い伝えが残っているようです。

 文献的にも1881年に既にお子さんの死亡事例の報告があり、「銀杏実は多量の青酸を含有するものか」という表題になっています。

 銀杏の食用による死亡の事例は、第二次大戦の前後に多く報告され、1960年代以降は減少していますが、最近でも症例報告は時々あり、2010年には成人女性が60個の銀杏を食べ、吐き気やおう吐などの中毒症状を認めています。

 また、お子さんにおいては、けいれんを示す事例が多く報告されています。全ての中毒患者さんの8割以上がお子さんで、特に3歳未満が多いと報告されています。概ねお子さんで7個以上、大人では40個以上の摂取により、摂取後6時間以内に発症することが多いとされていますから、「年の数以上は・・・」という昔の知恵は、かなり正確なものであったことが分かります。

銀杏中毒の原因はビタミンB6の吸収阻害?

 何故銀杏で中毒が起こるのでしょうか?その原因を解明したのは、日本の和田啓爾先生のグループで、1985年に日本薬学会の発行する英文の医学誌に発表されています。

 イチョウの実の成分の中には、MPN(4'-methoxypyridoxine)という物質が含まれていますが、このMPNはビタミンB6に構造が似ていて、ビタミンB6に拮抗します。脳において興奮性の伝達物質であるグルタミン酸は、ビタミンB6の働きの助けを借りて、抑制性の伝達物質であるGABAに変換されますが、これをMPNが阻害するので、結果として脳内にグルタミン酸が過剰になり、けいれんなどの脳の興奮症状を引き起こす、と考えられています(※)。

 この毒性は、身体にビタミンB6が不足しているほど強く働くので、同じ量の銀杏を摂取していても、栄養状態が悪ければ、中毒が起り易くなります。第二次大戦前後の中毒の増加は、その栄養状態と関わりが深い、と考えられています。

 治療は全身管理と対処療法が主体となりますが、けいれんに対しては、ビタミンB6の活性を持つ、PLPという物質の注射が有効とされています。

 ご存じの方も多いかとは思いますが、銀杏の食べ過ぎには、くれぐれもご注意下さい。また、10歳以下のお子さんに、銀杏を食べさせてはいけません。


執筆者

医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。

参考文献

Wada K, An antivitamin B6, 4'-methoxypyridoxine, from the seed of Ginkgo biloba L., Chem Pharm Bull.