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小さなお魚からヒトの肥満に関わる遺伝子を発見!?一体どういうこと?

公開日:2015年4月22日
更新日:2018年6月18日

 内臓脂肪型の肥満は、糖尿病等の生活習慣病の原因となることがあります。三重大学の研究グループは、脂肪細胞の増加に関わる遺伝子を見つけました。遺伝子の機能を明らかにした方法とは・・・?


画像はイメージです。記事と直接の関係はありません。(写真:Marrabbio2)

肥満は万病のもと

 肥満は、日本国内で急激に増えている糖尿病、高尿酸血症、痛風、脂肪肝、 すい炎等の病気や高血圧の原因となります。特に男性はどの世代でも10年前、20年前よりも肥満の人の割合が多くなっているので、注意が必要です。
 三重大学の研究グループは、肥満に関わる遺伝子を見つけたとインターナショナル・ジャーナル・オブ・オベシティで報告しました。

意外にもヒトと似ている小さな魚とは

 研究グループは、この遺伝子をどのような手法を用いて発見し、その機能を証明したのでしょうか? なんと、体長約3cmほどのゼブラフィッシュという小さなお魚をヒト疾患モデルとして利用しました。まずは、このお魚を簡単にご紹介したいと思います。
 ヒトと魚は、姿・形、生活している環境が全く異なりますが、意外にも主要な臓器の発生や構造は、ヒトとよく似ているそうです。遺伝子の類似性は70~80%あり、例えば、がん化に関わる遺伝子やタンパク質の類似性が非常に高いことが知られています。これまでに、神経発生、視覚,聴覚,心臓・血管系,内臓,消化器,血液細胞,顎などの研究に利用可能なお魚が準備されているようです。

脂肪細胞で活発に働いている遺伝子を発見

 研究グループは、内臓脂肪型肥満に関わる遺伝子を見つけるために、肥満糖尿病の女性や肥満の子供の脂肪組織で働いている遺伝子のデータを分析しました。その結果、両者の内臓肥満組織において、Mxd3という遺伝子が強く働いていることを見つけました。
 ゼブラフィッシュで調べてみると、お魚のMxd3遺伝子の働きは餌を与えている時に強まり、逆に食事を制限した時に弱まることがわかりました。

肥満遺伝子の働きを弱めると体重と脂肪が減!

 では、Mxd3遺伝子の働きを弱めるとどうなるのでしょうか? 研究グループは、人工的にこの遺伝子を働きを弱めた魚をつくり、魚の肥満度を測定しました。その結果、普通の魚は餌を与えると体重が増加していくのに対して、Mxd3遺伝子の働きを弱めた魚は、体重の増加、内臓脂肪の蓄積、脂肪細胞の大きさが抑えられていることがわかりました。驚くことに、通常より約3~4倍の餌を与えた場合でも、この魚の体重の増加は抑えられていました。

 魚で得られた結果をより確かなものとするため、ヒトにより近いマウスの脂肪細胞を用いて調べました。その結果、マウスでも、この遺伝子の働きを抑えると、将来脂肪細胞となる細胞の増殖や脂肪細胞の成熟が抑えられていたそうです。

 Mxd3は、私たちの体のいろいろな場所でさまざまな役割をはたしているそうです。そのため、肥満を防ぐために、この遺伝子の働きを単純に抑えるという手法を用いることができません。しかし、本研究は、ヒト疾患モデルとしてゼブラフィッシュという小さなお魚が利用できることが証明されました。今後、知見を積み重ねることにより、新たな肥満症の治療法が開発される日がやってくるかもしれません。


参考文献

Shimada Y et al. Downregulation of Max dimerization protein 3 is involved in decreased visceral adipose tissue by inhibiting adipocyte differentiation in zebrafish and mice.
Int J Obes (Lond). 2014 Aug;38(8):1053-60. doi: 10.1038/ijo.2013.217.