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人間とチンパンジーの違いを決める、「人間遺伝子」は存在するのか?

公開日:2015年6月8日
更新日:2020年3月30日

 人間とチンパンジーを分けた、いわゆる「人間になるための遺伝子」はあるのでしょうか?米国デューク大学を始めとする研究グループは、人間とチンパンジーで異なっている遺伝情報の中から、脳の成長に関わる部分を見つけ出しました。


人間とチンパンジーの違いはどこにある?(写真:Shutterstock.com)

チンパンジーと人間の違いを決めている遺伝子はあるの!?

 約500万年くらい前、人間とチンパンジーは共通の祖先から別れて進化したと言われています。人間とチンパンジーは見た目だけでなく、歩き方や言葉を話すかどうかなど様々な点が大きく異なりますが、いわゆる「人間になるための遺伝子」はあるのでしょうか?

 チンパンジーと人間のゲノムDNA(全遺伝情報)は98%以上が同じであると言われており、残りの数%の違いの中に何か大きな変化をもたらすものがないか、研究が進められています。

思考や言葉を話す能力と関わる脳の部分に関連

 2015年3月、米国のデューク大学を始めとする研究グループは、人間とチンパンジーの全遺伝情報の中で、DNAの並び方(配列)が異なっている「HARE5」配列と呼ばれる部分に注目しました。

 それまでの研究の結果から、このHARE5が、脳の成長やサイズに関わっている「FZD遺伝子」の働きを強めているのではないかと考えられていました。

 そこで、研究グループは、人間とチンパンジーの「HARE5」を、それぞれ生まれる前のマウスの細胞に導入し、FZD遺伝子の働きとマウスの脳の成長に変化があるかどうかを調べました。

マウスの脳が大きく成長

 すると、人間のHARE5配列をもったマウスは、早い段階からFZD遺伝子の働きが強まり、脳が大きく成長したのです。一方チンパンジーのHARE5配列をもったマウスでは大きくなりませんでした(※)。

 FZD遺伝子は、脳の中で「大脳新皮質(だいのうしんひしつ)」と呼ばれる場所で活性化していました。大脳新皮質とは、脳の中で表面側にある組織で進化的にも新しい部分と考えられています。様々なことから分析して考えたり、複雑な言葉を話す能力などに関わっていると言われていて、いわゆる高等生物ほどサイズが大きいという傾向があるそうなのです。
 
 もちろん脳が大きくなっただけで人間になるわけはないので、「HARE5」は人間へ進化するためのほんの一部分かもしれませんが、この研究は今後、人間の脳の成長や認知力の謎を解明するのにも役立つことが期待されます。

自分の遺伝子を知る

 遺伝情報の一部が変化することによって脳の成長にこんなにも大きく影響するなんて興味深いですね。遺伝情報の中には、私たちを作り出す設計図が隠されています。近年ではその謎が次々に明らかにされようとしています。

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監修者

医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。

参考文献

Boyd JL, Human-chimpanzee differences in a FZD8 enhancer alter cell-cycle dynamics in the developing neocortex., Curr Biol.