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食品添加物って危険?安全?専門家に聞く正しいリスクの評価方法とは【MYCODEセミナーレポート】

公開日:2020年2月6日

食品添加物に関するMYCODEセミナーを行いました(写真:Shutterstock.com)

 最先端の遺伝子研究や最新の健康トピックに関して、第一線で活躍する講師陣をお招きして開催する「MYCODEセミナー」。2019年12月は、食品添加物が健康に与えるリスクはどのように評価されているのか、またそのリスクに関する考え方について、食品安全委員会の専門委員も務めていらっしゃる東京農業大学の中江大先生にお話しいただきました。


講師:中江 大 先生
東京農業大学教授、医学博士。食品安全委員会添加物専門調査会および器具・容器包装専門調査会専門委員。奈良県立医科大学医学部卒業、専門は毒性病理学。食品などに含まれる化学物質のリスクあるいは有用性の研究を通し、科学的な「食の安全」の立証と啓蒙を目指す。内閣府の他、厚生労働省など各種の専門機関でも専門委員などを務め、毒性病理学や公衆衛生学に関する専門書(共著)も多数。

講義される中江先生

食品添加物は昔から使われていた人間の知恵

 「食品添加物は健康に悪影響を与えるのではないか」という話題になりがちですが、実際はどうなのでしょうか。セミナーでは、はじめに食品添加物の歴史をご紹介いただき、どのような役割を担ってきたのかをお話しいただきました。

 食品添加物の歴史は古く、ヨーロッパでは、生肉を発色良く、美味しく、保存性を高めるために「岩塩」を使ってハムやソーセージを作っていたそうです。岩塩には硝酸塩が含まれており、この硝酸塩にこれらの効果があることを経験的に認識し、用いられていました。

 現在、食品衛生法において食品添加物は「食品の製造過程において、または食品の加工・保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用するもの」と定義されています。つまり食品添加物は、昔から食生活を安全で便利でもあり豊かなものに発展させるための知恵として受け継がれてきました。

なぜ食品添加物を加えるの?大きな4つの目的とは

 私達が普段口にしている食品の多くに食品添加物が使用されています。具体的にどのような食品にどのような目的で使用されているのか、以下4つの項目について例も含めご紹介いただきました。

①食品の製造や加工に用いる
 食品の変色を防ぐpH調整剤や、豆乳から豆腐を作る際の凝固剤(にがり)、中華めんの食感(コシ)や色、風味付けの役割を持つかんすいなど、食品を作る過程や加工に欠かせません。

②食品の風味や外観を良くする
 安定した色を維持する発色剤、食品に香りを付け美味しく感じさせるための香料、味を良くする甘味料や酸味料など、食品の風味や見た目を魅力的にしています。

③食品の品質を保つ
 食品中の油脂の酸化を防ぐ酸化防止剤、微生物の増殖を抑える保存料、果物などのカビ発生を防ぐ防カビ剤など、食品の保存性を高めたり、食中毒を予防する上で欠かせません。

④食品の栄養成分を強化する
 食品の、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類などの栄養成分を強化しています。

食品添加物の分類

 食品衛生法では、食品添加物を4つ(指定添加物、既存添加物、天然香料、一般飲食物添加物)に分類しており、現在約15000種類が登録されています(表1)。ここには、人工的に合成された添加物も天然由来のものも登録されています。

表1. 食品添加物の種類(※1を参考に作成)

(品目数は令和元年6月6日現在)

食品添加物の使用基準を定める4ステップ

 食品添加物は、過剰摂取による健康被害など出ないよう、国によって食品添加物ごとにその使用基準(上限値)が定められています。例えば、身近なスクラロース(甘味料)は、チューインガムには2.6g/kg以下、ジャムや菓子・洋菓子には1.8g/kg以下など、用途や摂取頻度などに合わせて使用できる量の基準が設定されています。

 セミナーでは、具体的に各食品添加物の使用基準を決めていく過程を4つのステップに分けてご説明いただきました(図1)。

STEP1:その物質が、ヒトに健康危機を与える能力(有害性=ハザード)があるかを評価する
 動物実験にて、対象の物質をヒトには与えられない量を投与し、有害作用があるかどうかを調べます。

STEP2:有害な作用が認められた場合、無毒性量を推定する
 その物質が有害な成分であると評価された場合、摂取量をどの程度まで減らすと有害ではなくなるのかを動物実験にて調べます。

STEP3:ヒトの一日摂取許容量を設定する
 食品安全委員会は、動物実験で推定した無毒性量に安全係数をかけた値を、ヒトが一生にわたって毎日とり続けても健康へ悪影響がないとされる「一日摂取許容量(ADI)」として定めています。この安全係数には1/100が用いられており、これはヒトと動物の吸収や代謝、毒性作用などの違いを考慮したものになっています。

STEP4:実際の使用基準を定める
 厚生労働省は、その物質が実際の食生活でどの程度摂取されているのかを国民健康・栄養調査から推定し、その物質が添加物としてどの程度必要なのかも考慮した上で使用基準を定めています。

図1. 無毒性量・一日摂取許容量・使用基準の関係性(※1より一部改変)

実際に摂取している食品添加物はどれぐらい?

 私達がどのような食品添加物をどの程度摂取しているのかについては、「マーケットバスケット方式(一日摂取量調査)」という方法で調査されています。

【マーケットバスケット方式による一日摂取量調査の2ステップ】

STEP1:食品の摂取傾向を把握
 国民健康・栄養調査にて、国民がどの食品をどの程度とっているのかを把握します。

STEP2:加工食品を分析
 平均的に食べられている加工食品を実際に購入し、その中にどの程度の食品添加物が含まれているのかを分析します。そして、その食品添加物含有量に食品の平均喫食量をかけて、1日に摂取している食品添加物量を推定します。

 では、上記のマーケットバスケット方式で推定された食品添加物摂取量と、食品安全委員会が定めた一日摂取許容量(ADI)との差はどの程度なのでしょうか。この2つの値について、身近な甘味料を比較してみました(表2)。

 清涼飲料などにも使われているアスパルテームは、一日摂取許容量(ADI)が2344mg/日であるのに対して、実際の摂取量は0.019mg/日と推定されています。つまり、私達が摂取している量は、生涯にわたって毎日とり続けても健康へ悪影響がないとされる一日摂取許容量の10万分の1程度(対ADI比:0.00001)とのことでした。

表2. 食品添加物の一日摂取量と一日摂取許容量(ADI)の比較(※2より一部改変)

一日摂取量:マーケットバスケット方式によって求められた、一人が一日に摂取する量
一人あたりの一日摂取許容量(ADI):ヒトが生涯にわたって毎日とり続けても健康へ悪影響がないと推定される一日あたりの摂取量
対ADI比:一日摂取量/一人あたりの一日摂取許容量

「有害性」だけではなく「量」も重要?正しいリスクの捉え方とは

 リスクは、「有害性」の有無と「実際の摂取量」の両面から考えることが重要であると先生は強調されました。

 「有害性」は、物質がヒトの健康に悪影響を与える“能力がある”ことをいいます。つまり、普段摂取することが出来ない莫大な量をとらないと健康被害が生じない物質であったとしても、その物質自体が健康に悪影響を与える機能があるとすると、その物質は“有害性がある”とされます。しかし、有害性がある物質であっても、「ヒトが普通に摂取する量」で健康に悪影響を与える可能性がなければ、“リスクは小さい”とされます。リスクの大小は摂取量次第であり、有害性がない、又は小さい物質であったとしても過剰に取り過ぎるとリスクは増すことになります。

 また、リスクの反対語は「安全」ではなく、「ベネフィット(利益)」であり、最小限のリスクを認めた上で、最大限のベネフィットを得ようとすることが、食品添加物との正しい付き合い方だとお話しいただきました。

無添加食品や天然由来の添加物は安全なの?

 平成18年度に、食品安全委員会が「“無添加”と安全」に対するイメージを調査しています。無添加と表示されている商品とそうでない商品とを比べてどちらが安全と感じるかを尋ねました。

 その結果、「“無添加”とある方が安全」、または「“無添加”とある方が、どちらかと言うと安全」と回答した人が約8割で、「“無添加”が安全ではない」と回答した人はほぼ見られませんでした(図2)。多くの人に“無添加”と表示されている方が安全であるという認識があり、食品添加物はやはり健康に良い影響を与えないイメージがあることが報告されています。

図2. “無添加”表示商品への印象(※3より一部改変)

 では、本当に無添加は安全なのでしょうか。2012年、北海道で、白菜の浅漬けが原因の集団食中毒が発生しました。患者は169人、その中で死者は8人にのぼりました。製造する施設を調査したところ、製造工程において白菜を殺菌剤で十分に処理していなかったために病原菌が増殖し、食中毒が発生したと報告されました。よって、無添加食品にもリスクはあり、安全であるとは言い切れないのです。

 また、天然由来の添加物であれば安全というわけでもありません。アカネ色素は、天然由来の食品添加物として使用されていましたが、2000年頃から行われている再評価で発がん性が認められ、現在は使用を禁止されています。つまり、これらの例からも「天然由来の添加物だからリスクが低くて、安全である」とは言えないのです。

 食品添加物は、一律に「人工的に合成したものだから」、「天然成分だから」という評価ではなく、それぞれの添加物ごとに健康に与えるリスクがどの程度であるかを調べることが大切なのです。

様々な立場の人が意見を交わす「リスクコミニュケーション」が大切

 最後に、リスク分析を構成する「リスクコミュニケーション」についてご紹介いただきました。リスクコミュニケーションとは、「リスク評価やリスク管理について、関わりを持つ全ての人(生産者・研究者・規制当局・メディア・消費者など)が情報を共有したり意見を交換すること」を言います。

 リスクコミュニケーションにおける課題として、以下の調査結果をご紹介いただきました。

 2015年食品安全委員会は、一般消費者と食品安全専門家それぞれに「健康への影響に気を付けなければならないと考える項目」を10項目選択してもらう調査を行いました(図3)。その結果、一般消費者は、食品添加物が3位だった一方で、専門家は11位以下と食品添加物を問題にしていませんでした。

 また、同じように「ガンの原因になると思うもの」を5項目選択する調査においても、一般消費者は42%が選択しており、専門家は、5%だったとされています(図4)。

 この調査より、一般消費者と専門家には大きな認識の違いがあることが明らかになりました。

図3. 「ヒトの健康に影響すると考える項目」の一般の方と専門家の間の認識の違い(※4)

図4. 「ガンの原因になると思うもの」の一般の方と専門家の間の認識の違い(※4)

正しいリスクコミュニケーションのコツ

 大切なのは、正確なリスク情報を関わりを持つ全ての人が共有し、共通認識を持つことであり、そのために、以下のコツをご紹介いただきました。

・冷静で客観的な情報収集
 専門家など情報を責任ある立場で発信する人、メディアなどその情報を伝える人、その情報を受けとる消費者など全ての人が、冷静で客観的に情報を扱うことが望ましい。

・正しく批判的に物事をとらえる
 専門家も一般消費者も正しく批判的に物事をとらえるようにすることが望ましい。つまり、世間への影響力が大きい専門家が話すことは正しいと思いがちだが、鵜呑みにするのではなく、「本当に正しいのか」という視点で考えながら情報を受け取ることが大切である。

・専門家や情報を発信する側の注意点
 専門家など情報を責任ある立場で発信する人は、自らの意見と研究などから得られた客観的な情報とを区別しておくことが重要で、自らの意見を過剰に表現したり、客観的な情報に混入させたりすることは厳に慎まねばならない。

・予断や思い込みを避ける
 関わりを持つ全ての人において、予断、思い込み、自分勝手な信念、一方的な使命感、他者に対する個人的または観念的(具体的事実に基づかずに頭の中だけで組み立てられた現実に即していないこと)な好悪感情などは、正しいリスクコミュニケーションを行う上でマイナスに働く因子であるため、可能な限り避けることが大切である。

会場の様子

 MYCODEセミナーは、今後も開催していく予定です。会員の皆様にはメールで開催予定をお知らせしておりますが、セミナー予定ページもぜひご活用ください。

参考文献
※1. 内閣府食品安全委員会, (公開資料)「食品添加物への理解を深めよう!」
※2. 厚生労働省, 平成23年度マーケットバスケット方式による甘味料の摂取量調査の結果について
※3. 内閣府食品安全委員会, 食品の安全性に係るリスクコミュニケーション等に関する調査報告書
※4. 内閣府食品安全委員会, 食品に係るリスク認識アンケート調査の結果について