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【管理栄養士コラム】体重を減らすと、内臓脂肪と皮下脂肪どちらが優先的に減るのか?

公開日:2019年12月5日

内臓脂肪と皮下脂肪の違いについてご存知ですか?(写真:Shutterstock.com)

 「ぽっこりお腹を改善したい!」「体重が増えてきて、健康診断の結果が気になる・・・」といった場合、体重は“体脂肪”で減らすことが重要となります。この体脂肪の増減を判断する指標として、体脂肪率(体重㎏に対する体脂肪量㎏の割合)が挙げられますが、近年販売されている体重計でも計測できるようになりました。体重計のメーカーによっても基準は異なりますが、一般的に推奨されている体脂肪率は、男性15~20%、女性は20~25%とされ、男性で25%以上、女性で30%以上になると肥満とされています(※1)。

 体脂肪は、私達の体を動かすエネルギー源となったり、臓器を保護したり、体温を保持したりと重要な働きを担っていますが、過剰に蓄積すると健康に悪影響を与えることはよく知られています。今回は体脂肪の種類とその特徴についてお伝えし、それらの脂肪と運動の効果についてお伝えしたいと思います。

1. 体脂肪の種類:内臓脂肪と皮下脂肪の違い

 体に蓄積されている体脂肪は、大きく「内臓脂肪」と「皮下脂肪」に分けられます。

①内臓脂肪
 内臓脂肪は、内臓の周りに蓄積している脂肪のことを言います。内臓脂肪は、男性ホルモンの関係で、女性よりも男性の方が蓄積しやすいと言われています(※2)。内臓脂肪が過剰に増加すると、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病や動脈硬化を引き起こす原因となります。

②皮下脂肪
 皮下脂肪は皮下組織にある脂肪のことを言います。皮下脂肪は、女性ホルモンの作用により、男性に比べて女性の方が蓄積しやすいと言われています(※2)。皮下脂肪が過剰に蓄積すると、膝などの関節に負荷をかけ、関節痛などになる可能性が高まりますが、一方で内臓脂肪とは異なり、生活習慣病との関係はあまりみられないとされています(※3)。

2. 体重を減らすと、内臓脂肪と皮下脂肪どちらが優先的に減りやすいのか

 前述の通り、内臓脂肪の方が健康に影響を及ぼすリスクが高そうですが、体重を減少させた場合、内臓脂肪と皮下脂肪のいずれかを優先的に減らすことはできるのでしょうか。

 ある興味深い研究をご紹介させていただきます。この研究では、摂取エネルギーを制限しながら運動の有無や運動の種類をコントロールし、内臓脂肪と皮下脂肪の減少割合を観察しています。

 33人の肥満男性(BMI>27)を、摂取エネルギー制限のみ実施したグループ、摂取エネルギー制限+有酸素性運動(週5日15~60分の固定自転車やランニングマシンなど)を実施したグループ、摂取エネルギー制限+筋力トレーニング(週3日ショルダープレスや腹筋など)を実施したグループの3グループに分け、18週間のダイエットを実施しました。

 その結果、①~③のことがわかりました。

①体重の減少量については体重を減らす方法(運動の有無や種類)による違いは見られなかった
 各グループの体重減少量は、エネルギー制限のみ実施したグループで-11.4kg、エネルギー制限+有酸素性運動を実施したグループで-11.6kg、エネルギー制限+筋力トレーニングを実施したグループで-13.2kgとすべてのグループで有意に体重が減少されていました。しかし、3つのグループの間で体重減少量を比較すると、大きな違いはみられませんでした。よって、摂取エネルギーを制限し、それを上回る消費エネルギー量であれば、体重減少量に違いはなかったということがわかります(※4)。

②3つのどのグループにおいても皮下脂肪より内臓脂肪の方が減りやすい
 次に、内臓脂肪と皮下脂肪の減少率について比較しています。すると、3つのグループすべてにおいて、皮下脂肪より内臓脂肪の減少率の方が大きかったと報告されています(※4)(図1)。

図1. 内臓脂肪と皮下脂肪の減少率(※4)

③運動をせず、摂取エネルギーの制限のみで体重を減少させると、体脂肪とともに筋肉も減少する
 運動が苦手な方、忙しくて時間がとれない方などが、運動を実施しなくとも摂取エネルギーの制限さえ行っていれば、健康的に減量が成功するのでしょうか。この研究では、摂取エネルギー制限のみ実施したグループと摂取エネルギー制限と運動を合わせて実施したグループで筋肉量(骨格筋量)の変化も比較しています(図2)。その結果、摂取エネルギー制限のみ実施したグループでは、骨格筋量が7%減少していましたが、運動を実施した2つのグループでは、骨格筋量が減少せず維持されたと報告されています(※4)。

図2. 骨格筋量の介入前後比較(※4)

【POINT】
1. 体重を減少させると、皮下脂肪よりも内臓脂肪の方が減少率が大きい
2. エネルギー制限のみで体重を減らすと、骨格筋量も減少するため、同時に運動を実施することが重要

3. 健康に影響を与える「内臓脂肪」を減らすための運動量の目安

 骨格筋を減らさずに、体脂肪だけを効果的に減らすには、エネルギー制限だけでなく運動が必要であることがわかりました。では、具体的にどのくらいの運動量が必要なのかを整理しておきましょう。運動と内臓脂肪の減少に関する16の研究をまとめた調査では、内臓脂肪を有意に減少させるには、「少なくとも1週間に10メッツ・時の運動が必要である」と報告されています(※5)。

 「メッツ」とは、安静時を1とした時に何倍のエネルギーを消費するかを示す“運動強度”の単位であり、各運動によって異なります(図3, 4)。「メッツ・時」とは、運動強度「メッツ」に実施時間(時)をかけて算出する“運動量”の単位のことを言います。上記の10メッツ・時をウォーキング(4.3メッツ)で換算すると、10(メッツ・時)÷4.3(メッツ)×60(分)=約140分となります (※6)。現在運動習慣がない方は、まず1週間あたり10メッツ・時(ウォーキングでは約140分)を目標としてみてはいかがでしょうか。
 
 また、週あたりの運動量が多いほど内臓脂肪は減少すると言われていますので、現在すでに毎日20分程度の習慣がある方は、1日10分程度増やす、1回の運動強度を上げるなど、ご自身の習慣に合う目標を掲げてみると良いでしょう。

図3. 身体活動のメッツ(生活活動レベル)

図4. 身体活動のメッツ(運動レベル)

参考文献
※1. 日本肥満学会編集委員会, 肥満・肥満症の指導マニュアル<第2版>, 医歯薬出版株式会社
※2. 堀美智子, メタボリックシンドローム生活習慣病の予防と対策, 新日本法規出版株式会社
※3. 厚生労働省, e-ヘルスネット「肥満と健康」
※4. Ross R, Influence of diet and exercise on skeletal muscle and visceral adipose tissue in men., J Appl Physiol.
※5. Ohkawara K, A dose-response relation between aerobic exercise and visceral fat reduction: systematic review of clinical trials., Int J Obes.
※6. 厚生労働省, 健康づくりのための身体活動基準2013