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【認定遺伝カウンセラーコラム】「肥満」と「肥満症」は違うの?また、肥満遺伝子との関係は?

公開日:2023年5月18日

体脂肪や肥満に関わるFTO遺伝子とは?(写真:Shutterstock.com)

 「肥満」は一般的に使われていますが、「肥満症」という言葉をご存じでしょうか。また、肥満に遺伝子が関与していることは、良く知られるようになりましたが、今回は肥満と肥満症の違いを整理すると共に、遺伝子がどのように肥満に関与しているかについてもご紹介したいと思います。

1)肥満の指標であるBMIとは

 健康管理に肥満の指標(BMI: Body mass index)が良く使われ、Aの計算式によって求めることができます。また、BMI22の体重が最も死亡率・有病率が低い(※1)ことから、「標準体重」として推奨されています。ご自身の標準体重と現在のBMIを知っておくことは健康管理の面から重要になります。

A:BMI計算式
  BMI = 体重kg ÷ (身長m)2
   例:170cm、70㎏の場合 BMI 24.2 = 70㎏÷(1.7m×1.7m)

B:標準体重計算式
  標準体重 = (身長m)2 ×22
  例:170cmの場合 標準体重 63.58kg = (1.7m×1.7m)×22

2)肥満と肥満症の違いとは

 「肥満」は、BMIが25以上になった場合で、体の脂肪組織に脂肪が過剰になった状態です。「肥満症」は「肥満」に引き続いて起こる健康に障害をきたす場合(表1)で、医学的根拠から体重の減少を必要とする状態です。
 また、BMI35以上の「高度肥満症」では、睡眠時呼吸障害や心不全、肥満関連腎臓病、運動器疾患などが発症しやすいだけでなく、精神的な問題を抱えていることが多いため、BMI35未満の肥満症とは異なる治療や管理が必要であるとされています(※1)。

(表1)肥満症の診断基準に必須な健康障害(※1)
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1. 耐糖能障害 (2型糖尿病・耐糖能異常など)
2. 脂質異常症
3. 高血圧
4. 高尿酸血症・痛風
5. 冠動脈疾患: 心筋梗塞・狭心症
6. 脳梗塞: 脳血栓症・一過性脳虚血発作 (TIA)
7. 非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD)
8. 月経異常・不妊
9. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS) ・肥満低換気症候群
10.運動器疾患: 変形性関節症 (膝・股関節) ・変形性脊椎症,手指の変形性関節症
11. 肥満関連腎臓病
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 健康診断の結果などから、このような健康障害が疑われる場合、肥満が原因となっている可能性がありますので、食生活を含めた生活習慣の改善が求められます。

3)体脂肪や肥満に関わるFTO遺伝子とは?

 FTO遺伝子の正式名称はfat mass and obesity associated:脂肪・肥満関連遺伝子といい、この遺伝子は食欲や、高カロリー食品の志向に関連すると考えられています。
 遺伝子検査MYCODEでは、この遺伝子内にある一塩基多型(SNP:single nucreotide polymorphism)に基づいて結果をご提供しています。

 それぞれの遺伝子にはSNP(rs番号で表示)とよばれる部分が0.1%ほどあり、3つのタイプに分類することで体脂肪率や肥満の指標(BMI)が高いタイプかどうかがわかります。また同様に、LYPLAL1遺伝子のSNPを調べることで、肥満になる際には、内臓脂肪肥満に近いタイプか、皮下脂肪肥満に近いタイプかを知ることができるのです。

 しかしながら、遺伝子検査の結果と実際のご自身の体形との間に相違がみられることがあります。これは肥満や脂肪組織の分布など、体質を決める遺伝子は複数あることが知られており、一つの遺伝子のタイプで全てを説明することは極めて困難であり、ここに食生活などを含む環境要因が加わってくれば、非常に複雑な仕組みで体質が決まってくることがお分かりいただけるかと思います。

 最近の研究では、FTO遺伝子内に脂肪細胞の熱発生経路が遮断される原因となる新しいSNPが発見されました(※2)。
 脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があります。白色脂肪細胞は中性脂肪や糖を貯蔵し、エネルギーが必要になったとき、自らの脂肪を分解して全身に供給します。もう一つの褐色脂肪細胞は、貯蔵した脂肪を代謝によって燃焼させ、熱発生に関与します。
 今回、この研究では、これら脂肪細胞のミトコンドリアという細胞小器官からの熱発生が、SNPのタイプによって5倍程度の違いを生じさせ、熱発生が抑制された場合、利用されなくなった脂肪は貯蔵され、肥満の原因になっているのではないかとの知見が報告されたのです。
 
 このように、SNPと体質の関係性も少しずつ明らかになっており、今後の研究成果に期待したいところです。

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執筆者

認定遺伝カウンセラー 藤田和博
プロフィール:昭和大学藤が丘病院での先天異常、血液腫瘍の遺伝子・染色体検査の経験を生かし、現在は大東文化大学 スポーツ・健康科学部 健康科学科教授として臨床検査学教育と研究に従事。

参考文献