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ワーキングメモリーの衰えにくさ
- 原語
- working-memory
- 研究
- 米国 ケンタッキー大学
この研究のふむふむポイント
ワーキングメモリーって?
ワーキングメモリーとは、何か作業を行う際、一時的に物事を記憶し、覚えた情報を引き出して、決断し行動するために必要な記憶や過程をそう指します。仕事だけでなく、会話や買い物など普段の生活でも私たちはワーキングメモリーを使って行動しています。
高齢になってもワーキングメモリーが衰えにくい人がいる?
年齢が上がれば記憶や判断スピードが衰えるということは、多くの研究でも示されています。しかし、ワーキングメモリーの能力が遺伝的に衰えにくい人もいるということがわかってきました。
ワーキングメモリーの衰えにくさと遺伝子の関係とは?
米国のケンタッキー大学をはじめとする研究グループによって、高齢時のワーキングメモリーと関連のある遺伝型が見つかりました。
ワーキングメモリーの衰えにくさについてもっと知る

ワーキングメモリーって?
作業記憶とも呼ばれるワーキングメモリーは、「記憶」の中でも、何か作業を行っている間、一時的に物事を記憶し、その都度必要な情報を引き出して処理するための記憶やその過程のことを指します。
仕事や家事といったわかりやすい作業だけでなく、人と会話をしたり、買い物をしたりというような、普段の何気ない生活の中でも、脳はたくさんの記憶を一時的に記憶し、覚えた記憶を引き出して決断し、行動させるという行為を繰り返し行っています。
例えば、あなたが自動販売機でジュースを買うことを考えてみます。あなたは自動販売機の見本から飲みたいジュースを探し、カバンの中からお財布を出してお金を取り出し、お金を入れてボタンを押し、出てきたジュースとお釣りを取り出すことで、買い物が終了となります。
この少しの動作の中にも、あなたは自動販売機というものがどのようなものかを過去の記憶で覚えていて、その記憶に基づいて行動しています。そして、お財布はカバンに入っているという記憶も必要です。場合によっては小銭がどのくらいあるのか、お釣りはどのくらい出てくるのかを瞬時に判断して購入ボタンを押しているかもしれません。
このような些細な行動の時にも、実はワーキングメモリーの能力はフル活用されており、ワーキングメモリーは生活する上でとても重要であると言えるのです。

高齢になってもワーキングメモリーが衰えにくい人がいる?
一般的に、年齢を重ねると記憶力や判断のスピードは衰えると言われていますよね。「以前はすぐに反応できたことが、最近はちょっとした作業でも戸惑ってしまって」なんていう会話もよく耳にします。
多くの研究においても、高齢になるほど若い人よりも脳の認知的な処理速度が遅くなると言われています。
ある脳研究では、単純な認知テストを行っている間、高齢の人は若い人と比べて余分なネットワークを動かしていることが明らかにされています。しかし、加齢によって記憶力や判断力が衰えるメカニズムについてはまだまだわかっていないことが多いようです。
「みんな歳をとるとそういうものだから、仕方ないよね」そう思っている人が多いのではないでしょうか。ワーキングメモリーは鍛えることができるという意見もあり、いくつかの研究ではトレーニングを使って、実際にパフォーマンスが向上したという結果が得られているそうです。
また、遺伝子の違いによって、加齢によるワーキングメモリーの衰えが少ない人がいるということもわかってきました。
ワーキングメモリーの衰えにくさと遺伝子の関係とは?
米国のケンタッキー大学の研究グループは、健康な高齢者を対象とし、GRIN2B遺伝子に存在するrs3764030というSNPについて比較をしました。
その結果、遺伝子のタイプに「AA」または「AG」を持つ人のほうが、「GG」を持つ人よりも、加齢によるワーキングメモリーの衰えが少ない傾向があることが分かりました。
rs3764030というSNPは、AA、AG、GGの3つの遺伝型がありますが、以下の2つのタイプに分かれ、
・AAまたはAGの遺伝型をもつ人は「高齢時にワーキングメモリーが衰えにくいタイプ」
・GGの遺伝型をもつ人は「高齢時にワーキングメモリーが衰えるタイプ」
という遺伝的傾向を持っていると言えます。
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米国のケンタッキー大学をはじめとする研究グループは、健康な65-86歳の高齢者を対象とし、GRIN2B遺伝子に存在するrs3764030というSNPと、加齢によるワーキングメモリーの衰えについて比較をしました。
対象者には、「遅延見本合わせ」と呼ばれるテストを改変したものを受けてもらいました。そのテストは以下の通りです。
①対象者に、まず80枚の画像を見て覚えてもらいます。
②テストの最初にターゲットとなる画像が示され、対象者はこれを覚えるように指示されます。
③次にランダムな順番で10枚の異なる画像を見てもらいます。この画像の中には、ターゲットの画像と同じ画像と、ターゲットの画像とは異なる画像が含まれます。半分は①で覚えていない画像が含まれています。対象者にはそれぞれについて、ターゲット画像と同じか違うのかをすぐに判断し答えてもらいます。
8回のテストの後、その解答した速度(反応速度)と正答率が記録され、年齢ごとの値が計算されました。その結果、正答率ではあまり差がなかったものの、「AA」または「AG」のタイプの人が、「GG」のタイプの人よりも、年齢に応じた反応速度の衰えが少ないという傾向があることが分かりました。
対象SNPの遺伝型に基づき、以下のタイプに区分されます。
- ワーキングメモリーが衰えにくい
- 63.9%AA&AG
- ワーキングメモリーが衰える
- 36.1%GG
参考文献
Adult age differences in the functional neuroanatomy of verbal recognition memory.
Tuning Up the Old Brain with New Tricks: Attention Training via Neurofeedback.
Training working memory in older adults: Is there an advantage of using strategies?
Working-memory training in younger and older adults: training gains, transfer, and maintenance.
【対象SNP】rs3764030