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ピロリ菌を油で溶かして除菌!?活躍するのはとっても小さい粒ナノだ!
胃がんをも引き起こすピロリ菌。徐々に抗生物質の耐性菌が増え、除菌率が落ちているようです。そんな中、新しい方法を使った除菌法が報告されました。とても小さい粒子の膜で包まれた油を胃に投入するという方法です。
ピロリ菌の新しい除菌方法とは?(写真:Shutterstock.com)
「ピロリ菌」聞いたことがある人も多いでしょう。一度感染すると胃の中に住み続け、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、さらには胃がんもひき起こす可能性があるとして知られています。
除菌できない耐性菌が増加
ピロリ菌による感染症は、胃の疾患と強い関連があります。例えば、胃炎、消化性潰瘍、胃がんなどです。通常は抗生物質を飲んで除菌を行いますが、近年、抗生物質に耐性のあるピロリ菌株が現れており、除菌率は急速に低くなっているそうです。
2014年、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校モーレスがんセンター研究グループがこのヘリコバクター・ピロリ菌を除菌する新しい方法を提案しました。
除菌治療薬は・・・とても小さい粒の膜に包まれた油!
研究グループは、「リポソーム化リノレン酸」を使った除菌を検証しました。「リノレン酸」、とはエゴマ油、あまに油などに多く含まれる脂肪酸のことで、「リポソーム化」とは、1ナノメートル未満のとても小さい粒子でできた膜の中に入れるように加工した、ということなのです。「リポソーム化」した膜は、ピロリ菌に融合しやすく、菌とくっついた状態で中の成分が出てくるため、細菌の中に直接大量の油を流しこむことができます。結果として、細菌を殺してしまうという方法なのです。
胃の中の細菌を減らす効果あり
マウスによる検証の結果、リポソーム化リノレン酸はピロリ菌を殺し、マウスの胃の中の細菌を減らす効果があったそうです。
リポソームリノレン酸を除菌で用いた場合、ピロリ菌の感染症によって本来ならば上がるはずの炎症を抑えることが、代表的なサイトカインである「インターロイキン1β」「インターロイキン6」「TNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)」の値から明らかになりました(※)。さらにこの方法は、マウスを使った毒性試験でも、拒絶反応を示したりせず、安全性が確かめられたそうです。
彼らは、リポソームリノレン酸は、今後のヘリコバクター・ピロリ感染症の除菌治療において、有効かつ安全なお薬になると考えています。
新しいピロリ菌の除菌方法は、抗生物質耐性をもつピロリ菌の除菌だけでなく、アレルギーなどで抗生物質が飲めない人などにも有効かもしれません。今後の研究の進展に期待したいです。
監修者
医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。