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今さら聞けない、睡眠と健康の関係とは?専門家が教えます【MYCODEセミナーレポート】
最先端の遺伝子研究や最新の健康トピックに関して、第一線で活躍する講師陣をお招きして開催する「MYCODEセミナー」。2020年1月は、睡眠不足のデメリットや睡眠の質の改善方法について、パラマウントベッド株式会社の椎野俊秀先生にお話しいただきました。また、国内初*の眠りの自動運転を搭載したActive Sleep BEDの実演会も実施いただきました。
*搭載されたセンサで測定した睡眠情報をもとにベッドが自動で動き利用者の就床や起床をサポートする製品(パラマウントベッド株式会社調べ)
講師:椎野 俊秀 先生
早稲田大学理工学部からパラマウントベッド株式会社へ入社後、エンジニアを経てパラマウントベッド睡眠研究所へ異動。2018年より同研究所主幹研究員。睡眠の研究で得られた知見を日常生活に取り入れ、自身の睡眠改善にも日々取り組んでいる。
講義される椎野先生
睡眠不足は私達の体にどのような影響を与えているのか
日々の習慣のひとつに睡眠が挙げられますが、皆さんはどのように睡眠と向き合っていますか?何気なく睡眠をとっている人から、睡眠に悩みをお持ちの人もいらっしゃるかと思います。まずはじめに睡眠不足が私達の健康に与える影響についてご紹介いただきました。
1. 睡眠不足が脳機能に与える影響
短時間睡眠が続くと、脳機能(判断能力・処理能力)が低下することは良く知られていますが、どの程度の睡眠時間で影響が出てくるものなのでしょうか。ある研究では、研究参加者を4つのグループに分け、「0時間(断眠)」を3日間、「4時間」「6時間」「8時間」の睡眠をそれぞれ14日間継続してもらいました。その期間中、脳機能への影響を調べるため、PVT(Psychomotor Vigilance Task)と呼ばれる検査で、見落とし回数を毎日測定しました。この検査は、刺激が与えられてからの反応時間を10分にわたり調べるもので、反応までに0.5秒以上かかった場合を「見落とし」と判断しています。その結果、以下の2つのことが分かりました(※1)(図1)。
①睡眠時間4時間、6時間を14日間継続したグループは、見落とし回数が有意に増加しましたが、8時間睡眠のグループでは、有意な増加は見られませんでした。
②6時間睡眠であっても14日間継続すると、1日徹夜した人と同程度の見落とし回数が見られました(図1の薄グレーゾーン)。
図1. 睡眠時間と見落とし回数(※1より一部改変)
このように睡眠不足の蓄積は、判断能力などの脳機能との関連があることが分かっています。“適切な睡眠時間”は個人差が大きいともいわれていますが、ご自身の情報処理能力が低下していると感じる方は、これを機に睡眠時間を見直してみると良いでしょう。
また、別の研究では、睡眠時間を約6時間に制限することを1週間継続した場合、脳機能の低下(反応速度低下・見落とし回数増加)は、その後の3日間に約7時間の睡眠をとったとしても、制限する前の脳機能のレベルまでには回復しなかったとされています(※2)。
よって、避けられない事情で短時間睡眠が続く場合は、ミスが起きないように、いつも以上に注意深く過ごす必要がありそうです。何よりも短時間睡眠が続かないことが重要ですが、後程ご紹介する仮眠(昼寝)を取り入れるなどの工夫も検討してみましょう。
2. 眠らないと肌のバリア機能が低下
睡眠不足が肌に影響することは何となく実感されている方も多いのではないでしょうか。私達の皮膚は体の外と中を分ける境界線ですが、一番外側にある角質層がバリアとなり、皮膚の水分が必要以上に放出することを防いでいます。また、空気中の細菌などの異物が侵入することも防いでくれています。
ある研究では、徹夜前と徹夜後に皮膚から蒸散する水分量を計測したところ、徹夜後の方が皮膚からの水分蒸発量が多かったと報告されています。その理由として保湿にも関与しているバリア機能の回復が遅いことが挙げられています(※3)。皮膚組織の再生能力は、徹夜や睡眠時間と関係が見られるため、先生からは「睡眠不足は美容の大敵である」とのアドバイスをいただきました。
3. 睡眠不足が空腹感や食事量に与える影響
近年良く話題となりますが、睡眠不足が肥満になりやすいメカニズムとして、ホルモンが関与していることが知られています。睡眠不足の人は、食欲が増す作用がある「グレリン」というホルモンが増加し、食欲を抑える作用がある「レプチン」というホルモンが減少するといわれています。これらのホルモンは、習慣的に睡眠不足の場合だけでなく、たった1日睡眠不足だった場合でも増減し、その影響で空腹感を感じ、1日の摂取カロリーの増加につながることが報告されています(※4)。
夜遅くまで仕事をしたり、パソコンやゲームなどで夜通し起きていると空腹感を覚え、何気なくお菓子やカップラーメンを食べることはありませんか?それは睡眠不足によるホルモンの増減が影響しているのかもしれません。体重コントロールの取り組みとして、夜食を見直すことはもちろんですが、まずは睡眠時間や生活リズムを振り返ることから始められてはいかがでしょうか。
適正な睡眠時間はどれくらいなのか?
睡眠不足が健康に悪影響を及ぼすことは周知されつつありますが、では、推奨される睡眠時間とはどれぐらいなのでしょうか?
アメリカで実施された睡眠時間と6年後の死亡危険率を調査した研究によると、睡眠時間6.5~7.4時間のグループにおいて、死亡危険率が最も低かったと報告されています(※5)(図2)。この調査では、睡眠時間が短い場合だけではなく、長い場合でも死亡危険率が高くなっていますが、その原因を明らかにすることはできなかったとされています。いずれにしても、死亡危険率というひとつの指標で睡眠時間を見てみると、6時間半~7時間半程度が適正となりそうです。
図2. 睡眠時間と死亡危険率の割合(※5より一部改変)
仮眠のひとつである“昼寝”の影響は?
睡眠不足を補うために仮眠をとることが推奨されていますが、とり方次第では悪循環になると例を挙げて紹介いただきました。夕方以降に仮眠をとると、夜に目が冴えて十分な睡眠をとれなくなる可能性が高まります。また、仮眠が1時間以上となると深い睡眠に陥り、深い睡眠中に無理やり起床するとだるさが残るとのことでした。よって、夜間睡眠への影響や起床時のだるさを考慮し、仮眠(昼寝)の時間帯は昼過ぎの12~15時がお勧めで、睡眠が深くならない15分未満が良いとお話しいただきました。
また、昼寝の時間とアルツハイマー型認知症(AD)の発症リスクの関係についてもご紹介いただきました。ある研究では、アルツハイマー型認知症患者337人(平均年齢73歳)と、認知症ではない260人(平均年齢69歳)の昼寝時間を比較しています。同時にアルツハイマー型認知症の発症に関与している「APOEε4」の遺伝型についても調査しています(※6)。その結果、以下2点についてご紹介いただきました。
①30分以下の昼寝習慣(週3日以上)がある人は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが低下(0.16倍)し、発症の有無に関与しているとされるAPOEε4遺伝子を持っている人でも発症リスクは0.08倍でした(表1,2)。
②APOEε4遺伝子を持っている人だけを見てみると、60分以上(週3日以上)の昼寝習慣がある人は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが上昇(4.37倍)していることが分かりました(表2)。
つまり、深い睡眠がとりにくいとされる高齢者でも習慣的な昼寝は30分以下が一般的に推奨され、特にAPOEε4遺伝子を持っている人は、60分以上の昼寝習慣は避けた方が良いと考えられました。
表1. AD発症者と未発症者間のAD発症オッズ比(※6より一部改変)
表2. APOEε4遺伝型によるAD発症オッズ比の違い(※6より一部改変)
寝具が睡眠の質に与える影響
睡眠時間を確保しても、腰痛などの体の痛みで寝つけなかったり、睡眠が浅く夜中に起きてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。ご自身に合った寝具を使用することで、これらの悩みを軽減できる可能性があるかもしれません。睡眠の質に関係する寝具(マットレス・枕)の選び方についてご紹介いただきました。
1. マットレスを選ぶポイントは、寝返りをしやすい硬さが重要
睡眠中に“寝返り”をすることはとても重要であり、3つの大きな役割をご紹介いただきました。
①血液循環を促す
横になった際に体がマットレスと接する部分に圧力が、体全体には重力がかかっているため、寝返りをすることで圧迫部位や重力のかかる方向を変えて血液などの体液循環を促す役割があります。
②体温を調節する
寝返りをすることで布団の中にこもった熱を逃し、温度調節を行っています。
③睡眠段階の移行を円滑にする
寝返りにより睡眠段階(ノンレム睡眠・レム睡眠)が移行し、睡眠サイクルをととのえています。
睡眠に必要不可欠な“寝返り”ですが、寝返り時は睡眠が浅いため、目が覚めやすい状態です。睡眠の質を下げないためには、目を覚まさずにスムーズに寝返りができることが重要です。では、寝返りがしやすいマットレスとはどのような条件が挙げられるのでしょうか?
パラマウントベッド株式会社では、マットレスの硬さに注目し、寝返りの際にどのタイミングでどの程度の強さで筋肉が緊張しているのかを筋電位波形から調べました。マットレスは、「かたい・やわらかい・適度」の3つで比べましたが、硬すぎても柔らかすぎても寝返りの際に筋肉が緊張していましたが、適度な硬さのマットレスでは小さい緊張で寝返りが行われていました(※7)(図3)。寝返りをする際に筋肉に負担がかからないマットレスは適度な硬さが良いということが分かりました。
図3. マットレスの硬さによる、寝返り中の筋電位波形の違い(※7)
*筋肉の緊張が強いと濃く大きな波長がみられる
2. 適度な硬さのマットレスは腰痛の改善にもつながる
その適度(中程度)な硬さのマットレスは、不眠の原因のひとつに挙げられている“腰痛”の改善にも推奨されているとご紹介いただきました。ある研究では、腰痛を訴えている313人を、「硬いマットレスで寝るグループ」と「中程度の硬さのマットレスで寝るグループ」に分けて睡眠をとってもらいました。用いたマットレスの硬さは、欧州標準化委員会が開発したスケール(1.0=最も硬い、10.0=最も柔らかい)に照らし合わせると、硬いマットレス(2.3)、中程度のマットレス(5.6)を用いています。これらのマットレスにて90日間睡眠をとってもらい、腰痛の状態を比較したところ、中程度の硬さのマットレスを使用したグループの方が、腰痛の改善率が高かったと報告されています(※8)。
先生からは、中程度の硬さで腰痛が改善されたのは、寝返りや寝ている姿勢の負担が少なく良く眠れたことが影響しているのではないかとご説明いただきました。
3. 夏場は冷却枕が有効
特に夏場に推奨されますが、冷却枕を使用したことはありますか?先生からは、部屋の温度や湿度が高い状態でも、冷却枕を使用することで全身発汗量が有意に減少し、中途覚醒も抑えられたという研究をご紹介いただきました(※9)。頭部の冷却は睡眠の質に一定の効果がみられるため、夏場に寝つけない時は、冷却枕やタオルで巻いた保冷剤で試してみるのも良いかもしれません。
4. スムーズに寝返りができる枕で睡眠の質を向上
パラマウントベッド株式会社の製品である「スマートフィットピロー」は、首に当たる部分がふくらんだ形状の枕です。頭や肩にかかる圧力を分散させて首の筋肉をリラックスさせると共に、幅が広く平らな形状でスムーズな寝返りを手助けする効果があるそうです。実際に圧力を測定したところ、通常の枕に比べて後頭部にかかる最大圧は平均33%減少、肩甲骨にかかる最大圧は平均53%減少したとされています。スマートフィットピローを使用すると中途覚醒の減少など、睡眠の質を向上させる効果が期待されるとご紹介いただきました。
睡眠と健康領域の新ブランド「Active Sleep」設立
人には眠りやすい角度があり、その人の入眠をサポートしてくれるベッドを最後にご紹介いただきました。このベッドは眠ったことを感知すると、静かにゆっくりと自動で寝返りしやすいフラットな状態に戻り、朝はベッドの背が起きることですっきりとした目覚めを促します。また、スマートフォン(専用アプリ)がリモコンになり、ベッドの角度を変えたり、マットレスの硬さを調節したり、その日の体調や好みに合わせて眠り方を設定できます。さらに、アプリ内では日々の眠りの状態を分析し、睡眠改善へのヒントも教えてくれます。そんなActive Sleep BEDを、当日は多くの方に体験いただきました。
実演会の様子
MYCODEセミナーは、今後も開催していく予定です。会員の皆様にはメールで開催予定をお知らせしておりますが、セミナー予定ページもぜひご活用ください。
※1. Van Dongen HP, The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation., SLEEP.
※2. Belenky G, Patterns of performance degradation and restoration during sleep restriction and subsequent recovery: a sleep dose‐response study., J Sleep Res.
※3. Altemus M, Stress-Induced Changes in Skin Barrier Function in Healthy Women., J Invest Dermatol.
※4. Brondel L, Acute partial sleep deprivation increases food intake in healthy men., Am J Clin Nutr.
※5. Kripke DF, Mortality Associated With Sleep Duration and Insomnia., Arch Gen Psychiatry.
※6. Asada T, Associations Between Retrospectively Recalled Napping Behavior and Later Development of Alzheimer's Disease: Association with APOE Genotypes., SLEEP
※7. 三ツ木勇人, マットレスの寝姿勢、体圧分布、寝返りし易さの評価-弾力性の相違による比較-, 第18回日本睡眠環境学会学術大会
※8. Kovacs FM, Effect of firmness of mattress on chronic non-specific low-back pain: randomised, double-blind, controlled, multicentre trial., Lancet.
※9. Okamoto-Mizuno K, Effects of head cooling on human sleep stages and body temperature., Int J Biometeorol.