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【医師によるコラム】牛乳は健康に悪いのか?
これまで牛乳は定期的に飲むのが良いとされていましたが、近年は牛乳が健康に悪いのではないかという意見もあるようです。スウェーデンの研究グループは10万人を対象とした大規模な研究を行い、牛乳の健康への影響を報告しました。
健康に良いと思っていた牛乳、大人の飲み過ぎは良くない!?(写真:Shutterstock.com)
健康のために定期的に飲むのが良いと言われていたが・・・
こんにちは。六号通り診療所の石原です。
今日は牛乳と乳製品の話です。
牛乳を定期的に飲むことが、健康に良い食生活である、という考え方は、比較的最近まで世界的に広く認知された考え方でした。
成長期のお子さんの場合には、身長を伸ばすために有効だと、中学校の先生が指導していたのを覚えていますし、大人になってからは、将来の骨粗鬆症の予防に有効だとされていました。
しかし、その一方で牛乳は健康に悪いのでは、という考え方も、近年では決して少数派とは言えません。
体内で牛乳が分解されるとストレス物質ができる?
牛乳は、かつては粘膜を保護する、胃潰瘍の治療薬としても使用されていました。
牛乳には乳糖が含まれていますが、この乳糖は人間の乳糖分解酵素により、ブドウ糖とガラクトースの2種類の単糖類に分解され、その後に身体に吸収されます。
このガラクトースは、比較的少量の摂取においても、動物実験では酸化ストレスを増し、慢性の炎症を引き起こして、老化を促進するという複数の報告があります。
仮に動物実験と同じことが、人間にも当てはまるとすると、1日コップ1から2杯程度の牛乳を飲んでいても、老化が促進されるということになり、これは由々しき事態で、今の牛乳の摂取についての考え方を、根底から見直さないとならない、ということになります。
女性では総死亡リスクと骨折リスクが高まる
しかし、本当にそれは人間においても当てはまるような事実でしょうか?
2014年のBritish Medical Journal誌に、スウェーデンにおいて、10万人を超える大規模な調査結果が報告されました。
牛乳の摂取量を一番少ない群で1日コップ1杯(200ミリリットル)未満、多い群ではコップ3杯以上で計算すると、女性では一番少ない摂取量の群と比較して、最も多い群では総死亡のリスクが、関連する別箇の要素を補正した上で、1.93倍有意に増加していました(※)。
男性の同じ検証では総死亡リスクは1.10倍の上昇に留まっていましたが、上昇する傾向は有意に認めていました。骨折のリスクも女性では若干ですが有意に増加していました。
牛乳以外の乳酸飲料やヨーグルト、チーズにおいては、こうした総死亡や骨折リスクを増加させるという影響は、確認はされませんでした。
つまり、牛乳の摂取量が多いほど、女性では総死亡のリスクが増加し、骨折リスクも低下しないばかりか、むしろ増加する傾向を示します。
男性においては女性ほど明確ではありませんが、少なくとも総死亡についても骨折リスクについても、牛乳による良い影響は確認出来ません。
この影響は牛乳を毎日コップ1杯以上飲めば出現し、その量が多ければ多いほど顕著になりますがヨーグルトやチーズでは認められません。
牛乳に悪い影響があると断言できないが・・・
ちょっと単純化し過ぎた考えかも知れませんが、個人的な現状の僕の理解はこうです。
動物にせよ人間にせよ、赤ちゃんの時期には成長促進のために、ガラクトースが必要であり、そのために分解酵素の活性も高いのですが、その時期を過ぎれば、むしろガラクトースが過剰にあると、成長促進=老化に繋がるので、摂取量は少ない方が良い、と考えると理解し易いような気がするのです。
当面牛乳に悪い影響がある、と断じるようなことは出来ませんが、成人の場合には、牛乳の摂取は1日コップ1杯程度に留めておくことが、現状では安全な選択のように思います。
執筆者
医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。