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病気・医療

【医師によるコラム】食後高血糖にはどのような意味があり、どのくらい危険なのか?

公開日:2016年8月9日
更新日:2020年4月27日

医師によるスペシャルコラムです。今回は食後高血糖に関するお話です!


食前血糖と食後血糖の違いとは!?(写真:Shutterstock.com)

 特別企画、北品川藤クリニックの石原藤樹先生によるスペシャルコラムをお届けします!今回は「食後高血糖」についてのお話です。

糖尿病の診断では食前血糖が重視される

 健康診断や人間ドックで血糖値を測りますね。通常はこの時は食事を抜いて、空腹時の血糖を測ることが多いと思います。

 糖尿病の検査のためには、この空腹時血糖とHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)という検査を同時に行うことが一般的です。このHbA1cは、血液で酸素を運ぶ働きをしているヘモグロビンが、どのくらい血液中のブドウ糖による変化を受けているのかを示した数値で、大体2か月くらいの血糖値がどのくらいであったのかを、表していると考えられています。

 空腹時の血糖値が高く、HbA1cも高ければ、その数値により糖尿病という診断が確定します(厳密には2回以上の測定をして確定)。

 この空腹時血糖とHbA1cの数値が一致していれば、特に問題はありません。両方とも正常であれば、糖尿病はない、ということになりますし、両方とも高ければ糖尿病がある、ということになります。

 ところが、この2つの数値が一致しない、ということもあります。たとえば、空腹時血糖は全く正常なのに、HbA1cは少し高めになっている、というような場合です。こうした場合には、食後血糖が上昇している可能性が高くなります。

初期の糖尿病では食後血糖だけが上がることがある

 血糖値が少し高めではあるけれど、糖尿病と診断されるほど高くはない、というような場合には、ブドウ糖負荷試験という検査が行われます。ブドウ糖を飲んで、その前と飲んだ後30分くらい毎に、血糖値を複数回測定する検査です。

 こうした検査をしてみると、食前血糖は正常で、食後(負荷後)血糖だけが上昇している、ということがあります。この時、HbA1cは少し上がっていることが多いのですが、上がっていないこともあります。

 実は2型糖尿病という病気は、その初期には食後血糖だけが上昇して、食前血糖には異常のないことが多いのです。

糖尿病の怖さは合併症にある

 糖尿病という病気が怖いのは、合併症があるからです。糖尿病の合併症というのは、血管に起こる異常ですが、小さな血管の合併症と、比較的大きな血管に起こる合併症とに分かれます。小さな血管の合併症は俗に3大合併症と呼ばれる、目の網膜症と、腎臓の腎症と、神経症です。それに対して大血管合併症というのは、動脈硬化の進行と、それに伴う心筋梗塞や脳卒中、心不全などの合併症です。

 実は現在の糖尿病の患者さんの治療において、より大きな問題となっているのは、後者の大血管合併症です。この大血管合併症は糖尿病の患者さんの予後を決定する、一番大きな要素です。心不全を合併した糖尿病では、その5年生存率(5年後に生きている確率)は、転移した乳がんの患者さんと同じくらいになる、というようなデータもあるほどです。小血管の合併症は、HbA1cを7%以下に低下させるような治療を行なうことにより、予防出来ることが分かっていますが、そうしたコントロールを行っても、大血管の合併症は十分には予防されません。

 それでは、大血管の合併症を予防するために、有効な指標はないのでしょうか?そこで登場するのが食後血糖です。

食後血糖の意味は何か?

 2011年のDiabetes Careという糖尿病専門の医学誌に、イタリア人の糖尿病の患者さんを14年間という長期間観察したデータが発表されています。

 これによると、食後の血糖、特に昼食後1から2時間後の血糖値が、食前血糖よりも、大血管の合併症の危険性や、患者さんの生命予後を、より的確に予測していた、という結果になっています(※1)。HbA1cは勿論有効な指標ですが、それに匹敵するような予測効果が、食後血糖にはあるのです。

 その原因の全ては明らかではありませんが、食後の血糖の上昇により、血管の内皮細胞の障害が起こるのではないかと推測されています。また、インスリンの効きが悪くなる、インスリン抵抗性の関与もあると考えられます。

食後血糖をどう評価するのか?

 このように、近年その役割が重要視されている食後血糖ですが、それを評価する上での問題は、食後血糖はいつどのようにして測定するのかが、不明確であることです。食後と言っても、朝がいいのか昼がいいのか夜がいいのか分かりませんし、食後どれだけの時間を空ければ良いのかも分かりません。ふつうの食事は内容にばらつきが大きいので、代わりに糖負荷試験の1時間値や2時間値を用いよう、というような意見もあります。ただ、糖負荷試験の血糖値は、ブドウ糖だけを飲んだ時の数値なので、実際にはかなり人工的なものなのです。

 国際糖尿病連合(IDF; international diabetes federation)が、2007年に「食後血糖値の管理に関するガイドライン」を発表し、その改訂版が2011年に公開されています。日本独自の指針は現時点では存在しないので、この国際的なガイドラインを使用することが、現時点では最善と考えられます。

 このガイドラインによると、食後高血糖は、食後1から2時間の血糖値が、140mg/dLを超える状態のことで、動脈硬化の進行予防のためには、食後160mg/dLを超えないことが、目標としては推奨されています(※2)。いつ食後血糖を測定するのか、という点については、あまり明確な記載がありませんが、上記イタリアの論文などから考えると、昼食後2時間が妥当だと思います。

食後血糖をどう下げるのか?

 多くの糖尿病の治療薬が、食後血糖を下げる作用のあることが確認されています。しかし、その一方で食前血糖を少なからず低下させるので、どの薬を使用しても、食後血糖だけが高い人に、低血糖の危険なく使用出来る、という薬はありません。

 従って、食後血糖の低下には、食後の運動や食事の仕方の工夫、食事の内容などの調整がより重要です。

 これまでの研究では、食後1時間位経過してからの適度な運動や、炭水化物の多い食事を避けること、副食を先に食べて主食を後に回すこと、などが有効な方法として考えられています。

 糖尿病の気になる方や、HbA1cが少し高め(5.8%を超えるくらい)の方は、一度は食後血糖も測定することが、将来の病気の予防には有効だと思います。


執筆者
医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

参考文献
※1. Cavalot F, Postprandial blood glucose predicts cardiovascular events and all-cause mortality in type 2 diabetes in a 14-year follow-up: lessons from the San Luigi Gonzaga Diabetes Study., Diabetes Care.
※2. The International Diabetes Federation, 2011 Guideline for Management of PostMeal Glucose in Diabetes


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