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遺伝子

日本人はどこから来たのか? ~MYCODEセミナー「ミトコンドリアDNAでたどる日本人のルーツ」【レポート】

2019年06月12日 09時00分

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日本人はどこからきたのでしょう(写真:Shutterstock.com)

 最先端の遺伝子研究や最新の健康トピックに関して、第一線で活躍する講師陣をお招きして開催するMYCODEセミナー。2019年5月は、MYCODE ディスカバリーでもご提供している「ミトコンドリアDNAのハプログループ」に関連する内容で、日本人のルーツ研究の第一人者でいらっしゃる国立科学博物館の篠田謙一副館長の特別講義を開催しました。

講師:篠田 謙一 先生
京都大学理学部卒業、医学博士。専門は分子人類学。国立科学博物館 副館長(兼)人類研究部長。日本及びアジア・中南米諸国の古代人のDNAの分析を通して、日本人の起源や世界の人類拡散の歴史を追及している。「新版 日本人になった祖先たち—DNAが解明するその多元的構造」(NHK出版、2019年)・「DNAで語る日本人起源論」(岩波現代全書、2015)他、共著・執筆・講演多数。

1.ミトコンドリアDNAとは何か?

 人体は37兆個の細胞からできていますが、「ミトコンドリア」はその細胞内で働く細胞小器官として重要な機能を持っています。ミトコンドリアは「ミトコンドリアDNA」と呼ばれる独自のDNA情報を持ちますが、これが比較的コンパクトで分析しやすく、また母系遺伝で母親から子どもへと引き継がれることが分かっていることから、「ミトコンドリアDNA」の分析を通じて母系のルーツをたどることができます。

 このミトコンドリアDNAの分岐の歴史、そして世界各地での分布状況を追うことで、旧来は人骨や道具類の遺物から得られる形質的な証拠に頼ってきた初期人類史の研究は飛躍的な発展を遂げました。篠田先生は、現代人はもとより、古人骨に含まれるミトコンドリアDNAの分析を世界各地で行い、人類の進化の歴史をDNAから読み解く試みに挑んでおられ、その成果は人類拡散、および「日本人のルーツ」に関する最新の学説に結実しています。

2.DNA解析の進化が導く、人類拡散の歴史とは?

 DNA解析から描き出されている人類史はどのようなものなのでしょうか?それは、6万年前のアフリカから始まる人類拡散の歴史です。旧来の人類史では、アフリカをはじめとする各地にいた原人が、それぞれに進化を遂げて現代人へとつながる文明を築いていったという説が定説となっていましたが、1980年代に人類のミトコンドリアDNAの解析が始まると、世界各地の現代人の共通祖先の起源地はアフリカであることが分かりました。

 このことから、現生人類は約20万年前にアフリカに誕生し、ある一定の時期にアフリカ大陸を出発した少数のグループから世界に広がり、現代に至る発展を遂げた、というDNA分析から導き出された学説が、現在の人類史の定説となりつつあります。アフリカを出たとき、すでに人類は現代人と同じ知能を持ち、容姿の特徴も基本的には現代人と同じだったということも分かっています。出アフリカから始まる人類拡散の偉大な旅路、「グレートジャーニー」がDNAから浮かび上がってきたのです(図1)。

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図1. アフリカからの人類拡散のモデル図

 その研究のひとつの成果が、ミトコンドリアDNAの解析によって明らかとなった人類の(母系の)ルーツを系統的に追った「ハプログループ」です(図2)。ハプログループをその分岐の時系列で並べると、アフリカ大陸の中で一定のDNA変異が起こり、複数のハプログループを形成した後、派生グループの中から現代のアジア、あるいはヨーロッパへと展開していくものが現れます。そのため、より古く多様なハプログループがアフリカに集中しており、それが人類のアフリカ起源説とグレートジャーニーの根拠となっているのです。

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図2. ミトコンドリアDNAから導かれるハプログループの系統

 その後の研究手法の進化で、ミトコンドリアDNAだけでなく、男性から男性へ父系遺伝するY染色体の分析でも、現生人類がアフリカから広がっていく様子が確認できました。また、ミトコンドリアやY染色体より情報量の多い核DNAの解析手法が近年、急速に発展したことによって、各地に派生した現生人類が、それぞれの地域に住んでいた原人の子孫と交雑しながら広がっていった可能性など、より詳しい人類拡散のシナリオが明らかになっています。

3.日本人はどこから来たのか?ミトコンドリアDNAが語るルーツ

 それでは、ミトコンドリアDNAが導く人類拡散の歴史の中で、日本人のルーツについてはどのように考えればいいのでしょうか?日本人のルーツに関する議論は明治時代にすでに始まりましたが、1980年代まで、初期の人類史と同様に「日本列島の中で独自に原人~新人への進化が起こった」という多地域起源説を前提としていました。いわゆる「単一民族」としての進化の歴史を説明する複数の説が提唱されていたのです。

 しかし、90年代になると、多変量解析という統計手法を使った人骨の分析によって「弥生時代になって農耕技術と共に大陸から渡来人が日本列島に進出し、在来の縄文人と混血していくことで本土(本州・四国・九州)の集団が形成されたが、海を隔てている北海道と沖縄では混血が進まずに縄文人の子孫たちが残った」とする二重構造説が、その後の日本人のルーツの定説となっていきます。

 この学説では縄文人の由来は南方にあるとされ、彼らが列島の基層集団となって、狩猟採集を中心とした縄文文化を築き、弥生時代に水田稲作の技術を持って新たに渡来した大陸系のグループ(縄文時代以前に分かれ、大陸で独自の農耕文化を生んだグループ)が主に北部九州から日本に入り、縄文時代人と交雑しながら最終的に「本土の現代日本人」となっていったという二重構造説のシナリオは、古人骨のDNA分析によっても、ある程度証明されています。

 現代日本人のハプログループは弥生人以降に入ったものが大部分を占めていることも明らかになっており、これは二重構造説を支持します。しかし、二重構造説では日本列島の縄文人は均一であると考えていますが、沖縄から北海道に至る全国の縄文人骨のDNAから検出されるミトコンドリアDNAのハプログループを見ると、一様ではなく地域的な違いがあることが分かっています(図3)。また二重構造説ではアイヌと沖縄の人々の近縁性を指摘していますが、両者のハプログループは大きく異なっていることも分かっています。

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図3. 北海道の縄文人の全ゲノム解析から導かれた縄文人の成立のモデル図

 DNA分析からはこのように、本州を弥生文化の中心とし、沖縄・北海道を縄文文化を残す周縁とする二重構造説では説明できない事実が導かれているのです。現在では、古人骨の核のDNA分析も可能になっており、更に詳細な日本人成立のシナリオが描かれるようになっています。篠田先生らの研究グループは、日本各地での古人骨試料の収集を続け、DNA情報から容姿の特徴を特定するSNP解析等の手法も用いて、縄文~弥生~古墳時代へと続く日本人の進化の歴史を追っています。

 ちなみにMYCODE ディスカバリーでご提供しているのは、現代の日本人にメジャーな10のハプログループによるタイプ分けですが、篠田先生によれば、その個別のハプロタイプをより詳しく見ていくと、1つのメジャーグループから細かく派生するサブグループから、それぞれの祖先がいつ頃、アジアのどこから日本に進出し、どのようなルートをたどって日本各地を移動してきたかというストーリーまで推測ができるのだそうです。

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満席の会場で講義される篠田先生

 篠田先生が「日本人のルーツ」研究から得た知見として最も大きいのは、いわゆる「単一民族国家」のイメージには当てはまらない、日本人の多様なハプログループの分布と、アジア諸国、あるいは北ユーラシアとの類縁性だと、著作の中でも語られています。日本は現在は島国ではあるものの、地理的にも大陸ともっと近く、ユーラシア大陸の東沿海州の一部として発展してきた歴史を、DNAが証明しているのです。

 同様に、人類の歴史が意外に短いこと、多様に見える人種や民族といった差別化の枠組みを超えて、人類全体がDNA的には同種の親戚同士であることなどを、DNAは私たちに語ってくれます。その人類の歩みを俯瞰すると、DNAは個人に固有のものではありますが、同時に人類の歴史の中で移り変わっていくものでもあります。篠田先生は、現代は出アフリカ後、世界に拡散した人類が、情報と交通のネットワークの中で再び混ざり合う時代だと考えておられるそうです。DNAが語る人類の歴史を振り返ることは、100年後、200年後の世界を想像することでもあるのです。

4.セミナーを終えて

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セミナー当日の様子

 70分に基本的な知識から最新のトピックまでを盛り込んでいただいた篠田先生の講義に続いて、質疑応答の時間には、ミトコンドリアDNAとY染色体の分析結果の差や、邪馬台国の起源説とDNA分析の関連性など、参加者の皆様から様々な質問をいただきました。日本人のルーツに関する皆様の関心の高さが感じられる盛況な会となりました。

 MYCODE会員ですでにディスカバリーを受けられている方にとっては、ご自身の「ハプログループ(単一の特徴を持つグループごとに区分した、母系のルーツを示す遺伝子グループ)」について、より深く理解する機会になったのではないでしょうか。

MYCODE ディスカバリーについて詳しく見る

 本稿では、篠田先生の当日の講義内容、及び最新の著作の概略をまとめておりますが、詳細にご興味のある方は、ぜひ、篠田先生を初めとする日本人のルーツの研究者による著作、ドキュメンタリー番組などをご覧になってみてください。

 MYCODEセミナーは、今後も毎月開催予定です。会員の皆様にはメールで開催予定をお知らせしておりますが、セミナー予定ページもぜひご活用ください。

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