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病気・医療

心筋梗塞は防げる!これが生活に潜む危険因子だ

公開日:2021年11月11日

心筋梗塞の治療法と、普段の生活から改善できる対策についてお伝えします(写真:Shutterstock.com)

 心筋梗塞は高齢者人口の増加に合わせて患者数は増えています。急性心筋梗塞症だけでも、その発症数は年間約15万人を超え、そのうち30%が死亡するなど、大変怖い病気です。しかも心筋梗塞は生活習慣病が大きく影響します。それらを改善して予防することが大切です。

 一方で、医療の進歩によって治療も加速度的に良くなっています。今回は治療法や予防法を東京大学医学部附属病院の稲島司先生に教えていただきました。

【心筋梗塞治療の流れはどんなもの?】

心筋梗塞の治療法

稲島先生と実際に検査・治療に使われる『カテーテル』

 心筋梗塞の代表的な治療法は、薬を注射して血栓を溶かす「薬物療法(血栓溶解療法)」、狭くなった血管に「ステント」と言われる筒になった網目状の金属を通す「カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術)」、冠動脈に新しい別の血管をつなぎ、詰まった箇所を迂回して心筋への血流を改善する「冠動脈バイパス術」の3つです。

薬物治療

 血管を広げる作用のあるニトログリセリンや、血管に詰まった血栓を溶かす血栓溶解剤を投与します。発症からあまり時間が経過していないときに選択されることが多い治療法です。

 カテーテルなどが普及するまでは、心臓系の病気はこの治療がメインでした。

カテーテル治療

 日本では最もメジャーな治療法です。

 閉塞箇所を特定する冠動脈造影検査で使用したカテーテルの先に、「ステント」と呼ばれる網目状の金属を巻き付けたものを取り付けます。カテーテルを血管が閉塞した箇所まで通し、内側から膨らませて血管を押し広げた後、ステントを血管内に残すことで血管の再狭窄を防ぎます。カテーテルを使用した検査後にそのまま治療ができ、開胸も不要なため患者の負担が小さく、早期の退院が期待できます。

 日本にはカテーテル治療が可能な施設が多いので、最も治療機会が多い方法でしょう。

冠動脈バイパス術

 冠動脈に複数の治療箇所がある場合、冠動脈の主要な部分に治療が必要な場合に選択されます。

 身体の他の部分の動脈から閉塞した血管を迂回してその先の血管につなぎ、血流を再開する治療です。手術中に血流や酸素を確保するために人工心肺を使用する場合もあります。カテーテル治療と比較して再狭窄のリスクが低いといったメリットがあります。

 一方で、基本的に全身麻酔をし開胸するので、手術が終わっても日常生活への復帰まで時間がかかるなどの点もあります。

 いずれも閉塞した血管の先の血流再開を目指す「再灌流(さいかんりゅう)療法」といわれる治療になります。

 血流が戻ることで心筋の壊死が広がらず、機能を維持する効果を期待できます。最近の医学論文では心筋の機能がやや回復したという報告もされており、早期発見・早期治療の重要度が増しています。

「もしも罹ったら」心臓のリハビリテーション

 再灌流治療が成功した後は不整脈の発生に気を付ける一方、安静にしすぎないよう早期にリハビリテーションを開始します。

 最初に目指すのは「歩く」ことです。回復が早い場合には治療の当日や翌日から、短い距離の歩行や飲食を再開し、1日でも早く普段の生活に戻ることを目指します。

【「心筋梗塞リスクの高い人って?」予防の話】

心筋梗塞の危険因子

 動脈硬化を起こしやすい生活習慣を持つ人は心筋梗塞のリスクが高いとされています。

 特に「喫煙」、「運動不足」、「高血圧」、「糖尿病」、「脂質異常症」などの危険因子が多ければ多いほど、発症リスクも高くなります。

 加齢とともに動脈硬化は進むため高齢者はリスクが高く、男性は女性に比べて発症しやすいと言われています。

血管にとって大敵なのは……

 心筋梗塞は危険因子を減らすことで発症リスクが抑えられる病気です。その中でも予防に最も重要なことが「禁煙」と「食生活」です。

 喫煙は血管の最大の敵。血管の内膜を傷め、動脈硬化や血管収縮を引き起こします。禁煙をすれば2年ほどで心筋梗塞のリスクは下がり始め、10~14年で非喫煙者と同等になると言われています。

 食生活では、野菜や魚を多く食べることを意識しましょう。コレステロールや血圧を下げる効果が期待できます。

 コレステロール値を上げる牛肉や豚肉、高血圧症の原因となる塩分などは注意が必要です。

 ただし、美味しい食事や楽しい食事は大切なことですから、無理のない範囲でコントロールすることを意識するようにしましょう。

日常生活で運動するための一工夫

 運動不足の解消も心筋梗塞の予防に効果的です。いきむような負荷の大きい無酸素運動よりも、軽いジョギングやウォーキングなどの有酸素運動が適しています。加えて筋肉がつくようなトレーニングも併せて行えるとなお良いでしょう。

 とはいっても仕事が終わるとぐったりしてしまい思うように運動の時間が作れないという人は、普段の移動時に少し速歩きをするというのも効果的です。

 通勤時の乗り換え時間に、前を歩いている人を追い越せるくらいの速さで歩くことから始めてみましょう。

 またオフィスワーク中心で普段座っている時間が長い人は、ちょっとした用事でも小まめに立ち上がることを意識してみるのも効果的です。

食生活の改善とウォーキングで予防しよう!

 ここでは色々な予防法が出てきましたが、食事制限も運動も無理をしては続けることが難しくなってしまいます。

 自分の生活習慣をよく見直し、何か無理なく「習慣化」できることはないか。見直してみることから始めてみましょう。

稲島司(いなじま・つかさ)先生

東京大学医学部附属病院 地域医療連携部助教 医学博士
2003年東京医科大学医学部を卒業。2008年東京大学大学院医学系研究科を修了。循環器内科の専門診療のほか、外来診療を中心に生活習慣病の予防・改善に携わる。東京大学医学部附属病院では地域医療連携部の専任医師として地域医療機関や介護・福祉施設との連携を推進。論文を中心とした医学エビデンスを紹介しながらの説得力のある講演や著作は人気を博している。循環器専門医、総合内科専門医、認定産業医、認定健康スポーツ医。
著作に『世界の研究者が警鐘を鳴らす 「健康に良い」はウソだらけ 科学的根拠(エビデンス)が解き明かす真実』(新星出版社刊)、『血管を強くする歩き方: パワーハウス筋が健康を決める』(木津 直昭との共著・東洋経済新報社刊)などがある


著者

松本まや(まつもと・まや)
プロフィール:フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

参考文献

※ ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)

記事提供元

MYCODEの運営会社・株式会社DeNAライフサイエンスのグループ会社であるDeSCヘルスケア株式会社が提供する、ヘルスケアエンターテインメントアプリ「kencom」掲載記事より「心筋梗塞は防げる!これが生活に潜む危険因子だ【心筋梗塞・後編】」(2019年3月21日配信)を一部改編。
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